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2.手紙

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「おかえり」

「ねえ、もー、階段めっちゃ疲れる。これ、やめない?」

「やりたいって言ったのそっちでしょ」

「そーだったぁ。過去の自分が憎い」


 なんでこんなこと提案したんだろー、とけらけら笑いながら彼女は上着をひょいと脱いでその辺りに投げるから「シワになるよ」とだけ言っておいた。
 ちょっと悩んだのちに拾っているのが少し面白い。


「ねえ、味噌汁なにがいい?」

「んーとね、ワカメのやつ。まだある?」

「あるよ。私はお揚げにしようかな」


 そう言いながらフリーズドライの味噌汁を器に入れる。
 お湯を注ぐだけでかなり美味しいから、画期的だなぁとしみじみ思う。
 二人分の味噌汁を作るって量が微妙だから結構大変だけど、これは面倒な時にでも味噌汁が飲めて非常に楽だ。
 私がご飯を盛っているところで箸や皿を鼻歌交じりに並べてくれるのを見てふっと何かが緩む気がした。
 なんでも楽しそうにこなすのは私には出来ないことで、私は彼女のこういうところがとても好きだと思う。

 サイズ感を間違えて買った少し大きすぎるテーブルにご飯を並べて二人で同時に「いただきます」と手を合わせる。
 おいしい、と彼女はいつも律儀に伝えてくれるから自然と頬が緩む。
 緩んだついでにさっき思い出した手紙のことをぽつぽつと話すと意外と反応が良かった。


「手紙、懐かしー。私もやってたかも、転校した子と。でもそんなマメじゃなかったから、一通か二通だったかなぁ」

「私は何年か続いたよ」

「わー、便箋一枚すら持て余してた私から見ると凄すぎる」


 そう考えると私は大抵、シールで封を閉じるのが大変なくらい分厚い手紙を書くのが好きだったなぁと思う。
 あれは返事がそのくらいだと嬉しかったから自分も書いていたのだろうと思う。
 自分が欲しいものは他人に与えれば自ずと返ってくるのだと思えていた頃が懐かしい。


「そういうのってさ、そんなに続いたのにどこのタイミングで続かなくなるの? いきなり? それとも忙しいからとか理由を付けてやめるの?」

「ん、えーと、ね。私の場合はなんとなく、かな。いつの間にか来なくなってた気がする。いや、私がいつの間にか返事を書かなくなったんだっけ。もう、よく覚えてないや」

「ふーん、そんなものかぁ」


 つまらなそうに言われるから、そんなものだよと苦笑いしようとしたところでふっと手紙を書いていた時の自分を思い出した。
 ずっと楽しい気分で書いていただろうか。本当に?
 ずっと面白い出来事ばかりを綴っていたわけではないだろう。
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