10 / 10
10.理由なんていらない
しおりを挟む
校舎裏まで二人で歩いて、誰にも見つからないように陰に身を潜めるのが、小学生の遊びみたいでどちらともなく笑いが込み上げた。
けらけらと笑って、瑠衣が笑い過ぎたと言い訳しながら目尻の涙を拭った。
「あーあ、砕けた」
疲れ切った声で瑠衣が入って、ずるずると土の上にしゃがみ込んでしまった。
それを追いかけるみたいに私も瑠衣の隣に座り込む。
汚れるよ、と瑠衣に言われても聞かない。
私は瑠衣と目線を合わせて笑いながら言った。
「拾ってあげる」
なに言ってるの、と言いたげな瑠衣の瞳はどこまでもまっすぐで、私はそんな親友の目が本当に好きだ。
「瑠衣の心が砕けたなら、私が全部拾ってあげる。治るまでずっと一緒にいる」
だから、あんなの気にすることないんだと言うと、掴んだままだった瑠衣の手が静かに震えていることに気づいた。
「なんで、美奈はそんなに優しいの」
「瑠衣がそうしてくれたから」
泣きそうな顔で笑う瑠衣に、私は正直に答える。親友の間に下手な愛想なんて不要だ。
私と瑠衣が仲良くなったのは小学生の頃だ。確か高学年になったあたりだから、五年生とかそのくらい。
それまでは私にも普通に友だちがいた。同じ女の子の友だちが。
でも私は友だちに比べると幼かったのではないだろうか。少なくともそう見えていたのだと思う。
その頃になるとみんな少しませてきて、背伸びしたくて、恋の話題なんかが飛び交うようになっていた。
美奈ちゃんの好きな人は誰?と聞かれて、適当に答えておけばいいのに馬鹿正直だった私は、いつもいないと首を振っていた。
だっていないんだから仕方ないじゃないか。恋の好きと友だちの好きの違いなんて全然分からないのだから、そんなこと聞かれたって答えられっこないじゃないか。
『なんで誰も好きにならないの?おかしいよ。そういうのってキモくない?』
子どもの言うことだ。深い意味なんてないし、笑って受け流せばいい。
でもその時は私だって子どもだったのだ。悲しくなったって、泣きたくなったって、なにが悪い。
『そうやって簡単に人のこと、きもいって言う人の方がきもいんじゃないの』
その時から少しクラスで浮いていた瑠衣がそんなことを言ってくれた。
ほとんど話もしたことがなかった。それなのに口を挟んでくれたことが、私は泣きたくなるほど嬉しかったのだ。
「好きになるとかならないとか、そんなのその人の勝手だって、自由なんだから気にしなくていいって、言ってくれたのは瑠衣だよ」
こんな風に教室から連れ出して、小さな手で私の手を包んでそう言ってくれたのだ。
「好きって心でなるものだから、無理にそうしようとなんてしなくていいんだって」
瑠衣は案外自分のことに興味がないから忘れていたのかもしれない。心底驚いた顔をして、私の顔を見つめていた。
「でもそれ以上に理由が必要ならもう一つだけあるよ。とびきりのやつが」
いつだったか瑠衣の体を抱きしめてみたいと思ったことを実践してみた。
違う体がびっくりするほどぴったり重なった気がした。
「私は瑠衣の親友だから」
親友に優しくするのに理由なんていらない。ただそれだけのことだ。
けらけらと笑って、瑠衣が笑い過ぎたと言い訳しながら目尻の涙を拭った。
「あーあ、砕けた」
疲れ切った声で瑠衣が入って、ずるずると土の上にしゃがみ込んでしまった。
それを追いかけるみたいに私も瑠衣の隣に座り込む。
汚れるよ、と瑠衣に言われても聞かない。
私は瑠衣と目線を合わせて笑いながら言った。
「拾ってあげる」
なに言ってるの、と言いたげな瑠衣の瞳はどこまでもまっすぐで、私はそんな親友の目が本当に好きだ。
「瑠衣の心が砕けたなら、私が全部拾ってあげる。治るまでずっと一緒にいる」
だから、あんなの気にすることないんだと言うと、掴んだままだった瑠衣の手が静かに震えていることに気づいた。
「なんで、美奈はそんなに優しいの」
「瑠衣がそうしてくれたから」
泣きそうな顔で笑う瑠衣に、私は正直に答える。親友の間に下手な愛想なんて不要だ。
私と瑠衣が仲良くなったのは小学生の頃だ。確か高学年になったあたりだから、五年生とかそのくらい。
それまでは私にも普通に友だちがいた。同じ女の子の友だちが。
でも私は友だちに比べると幼かったのではないだろうか。少なくともそう見えていたのだと思う。
その頃になるとみんな少しませてきて、背伸びしたくて、恋の話題なんかが飛び交うようになっていた。
美奈ちゃんの好きな人は誰?と聞かれて、適当に答えておけばいいのに馬鹿正直だった私は、いつもいないと首を振っていた。
だっていないんだから仕方ないじゃないか。恋の好きと友だちの好きの違いなんて全然分からないのだから、そんなこと聞かれたって答えられっこないじゃないか。
『なんで誰も好きにならないの?おかしいよ。そういうのってキモくない?』
子どもの言うことだ。深い意味なんてないし、笑って受け流せばいい。
でもその時は私だって子どもだったのだ。悲しくなったって、泣きたくなったって、なにが悪い。
『そうやって簡単に人のこと、きもいって言う人の方がきもいんじゃないの』
その時から少しクラスで浮いていた瑠衣がそんなことを言ってくれた。
ほとんど話もしたことがなかった。それなのに口を挟んでくれたことが、私は泣きたくなるほど嬉しかったのだ。
「好きになるとかならないとか、そんなのその人の勝手だって、自由なんだから気にしなくていいって、言ってくれたのは瑠衣だよ」
こんな風に教室から連れ出して、小さな手で私の手を包んでそう言ってくれたのだ。
「好きって心でなるものだから、無理にそうしようとなんてしなくていいんだって」
瑠衣は案外自分のことに興味がないから忘れていたのかもしれない。心底驚いた顔をして、私の顔を見つめていた。
「でもそれ以上に理由が必要ならもう一つだけあるよ。とびきりのやつが」
いつだったか瑠衣の体を抱きしめてみたいと思ったことを実践してみた。
違う体がびっくりするほどぴったり重なった気がした。
「私は瑠衣の親友だから」
親友に優しくするのに理由なんていらない。ただそれだけのことだ。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】ぽっちゃり好きの望まない青春
mazecco
青春
◆◆◆第6回ライト文芸大賞 奨励賞受賞作◆◆◆
人ってさ、テンプレから外れた人を仕分けるのが好きだよね。
イケメンとか、金持ちとか、デブとか、なんとかかんとか。
そんなものに俺はもう振り回されたくないから、友だちなんかいらないって思ってる。
俺じゃなくて俺の顔と財布ばっかり見て喋るヤツらと話してると虚しくなってくるんだもん。
誰もほんとの俺のことなんか見てないんだから。
どうせみんな、俺がぽっちゃり好きの陰キャだって知ったら離れていくに決まってる。
そう思ってたのに……
どうしてみんな俺を放っておいてくれないんだよ!
※ラブコメ風ですがこの小説は友情物語です※
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
息絶える瞬間の詩のように
有沢真尋
青春
海辺の田舎町で、若手アーティストを招聘した芸術祭が開催されることに。
ある絵を見て以来、うまく「自分の絵」がかけなくなっていた女子高生・香雅里(かがり)は、招聘アーティストの名前に「あの絵のひと」を見つけ、どうしても会いたいと思い詰める。
だけど、現れた日本画家・有島はとてつもなくガラの悪い青年で……
※喫煙描写があります。苦手な方はご注意ください。
表紙イラスト:あっきコタロウさま
(https://note.com/and_dance_waltz/m/mb4b5e1433059)
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる