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8.風邪をひいた幼馴染

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 俺の目の前にいる亜子は珍しいことに大人しくベッドに横たわっている。
 いつもなら褒めただろう。よくベッドで寝たなって。ようやく俺の言うことを聞いてくれたんだなって。
 まあこの状況では一ミリも褒めるわけにはいかないのだけど。


「だから言ったんだよ」


 今回ばかりはと顔を顰め腕を組んで懇々と説教する俺を見て、亜子がびくりと肩を震わせた。
 一瞬可哀想かと思ったものの、ここは心を鬼にするべきだと気を引き締める。


「俺、何回も言ったよな。風邪引くって。ちゃんとベッドで寝ろって」


 そう、何度も何度も言い聞かせたにも関わらず亜子は断固としてベッドで眠らず、そして今日とうとう熱を出したのだ。
 朝訪ねてきたら真っ赤な顔をして唸っている幼馴染を発見した俺の心臓の悪さも考えてもらいたい。危うく救急車を呼ぶところだった。
 まあ熱はそんなに高くないし、今日明日は休みなので悪化しない限り家で休んでれば治るだろう。
 亜子の看病のためにバイトは平謝りして休ませてもらった。バイト先には申し訳ないが仕方ない。


「ううう~、涼太がづめだい!」


 喉を痛めているらしい亜子がぎゃんぎゃんと騒ぎ始めた。


「私だって!風邪引きたくて!引いたわけじゃ!ないもん!」

「あー、わかった、わかったから。悪かった」


 甘いと言われても仕方ないが、いとも簡単に謝ってしまった。自分の決意の弱さに呆れる以上に少々心配になるくらいだ。
 はあ、と溜め息を吐きながらいつまでも怒っているわけにもいかないので、優しい声を意識して尋ねる。


「食欲はあるか?昼、なに食べたい?」

「あったかいもの」

「おーおー、いつも通りな」


 毛布を被ってきらりと目を輝かせる亜子に一安心する。食欲があるなら大丈夫だろう。悪化するようなら病院に担ぎ込めばいい。


「作って来るからちゃんと寝てろよ」


 毛布を亜子の肩までかけてやりながら、しっかりと言いつけてから部屋を出る。
 あまり長い間一人にしておくのは不安なので手早く作ることにした。
 小鍋を取り出して炊いてある米を適量入れる。水で膨らむので気持ち控えめに。
 そこに水を入れてぐつぐつと煮込む。煮立ったところで料理酒を入れて塩で味を整える。
 最後に溶いた卵を流し入れて手早く混ぜれば卵粥の完成だ。


「亜子、出来たぞ」


 いそいそと二人分の卵粥を持って部屋に戻ると、うつらうつらしていたらしい亜子が体を起こして緩慢に首を傾げた。


「涼太もここで食べるの?」

「ん、だって亜子一人じゃ寂しいだろ」


 うん、といつもより幾分素直に亜子が頷く。
 普段と変わらず元気な俺が卵粥だけでは後でお腹が空くだろうけど、まあ後で何か摘めばいい。
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