上 下
3 / 13

3.どうやら皇子は幼いようで

しおりを挟む
「失礼ながら、御身に触れさせていただいても宜しいでしょうか?」


 皇子の気が乗らない場合はこちらからその気になるように動きましょう。という教えをなんとか思い出す。
 それでも皇子は何も言わない。むしろ一歩後ろに下がってしまったようだ。ミアは不躾だということを承知の上で好奇心に勝てずにそっと視線を上げた。

 初めて間近で見る皇子の顔はひどく青ざめていた。
 まだ幼さの残るものの、整った顔立ちが可哀想なくらいに辛そうだった。もしや体調でも悪いのでは、とミアが思わず皇子に近づく。
 ひっ、と引き攣ったような声が上がったかと思うと、皇子が初めて言葉を発した。


「よ、夜伽は不要だ」


 ひどく震えていて怯えた声だった。何をそんなに、とミアは困惑する。
 やはり調子が良くないのかもしれない。だとすれば誰か呼んだ方が良いのだろうか。


「誰かお呼びしましょうか。御付きの方はどちらに」

「ふ、不要だ」


 切羽詰まったような声なのに不要だというのは何事か。
 皇子が考えていることがさっぱり分からない、とミアは内心溜息を吐きながらも丁寧な言葉で続ける。


「それなら一度寝台でお休みになられてはいかがでしょう」


 これなら大丈夫だろうと思ったのに、皇子は何故かより一層怯えてしまったようで、今やはっきり見て分かるほどに震えている。
 ミアとほとんど変わらない背丈を縮こませているためにひどく小さく見えた。


「だ、だから夜伽は、ふ、不要だと言っているのに……」


 そう言いながらも怯えているために威厳なんてものは見当たらない。子供が怖がって駄々をこねている姿に一番近いだろうか。
 ミアは更に必死で考えていた。この状況はかなりまずいのではないか。自分がどうにかしなければ、と。
 そしてミアは分かりやすいように一歩後ろに下がって見せた。それから宣誓をするように片手を挙げる。


「……私は殿下の許可なく触れたり致しませんし無理に夜伽を行わないと誓います」


 何が起きたか分からない、という風におはミアを見つめていた。
 真一文字に結ばれていた口をミアは少しだけ緩める。皇子を安心させるためだけに。


「これなら怖くありませんか?」


 それは多少のぎこちなさはあるものの、思い遣りを感じられるものでもあった。
 それを見た皇子の目から堰を切ったようにぽろぽろと涙が零れる。


(この皇子、私と同じ歳だというのにまるで本当に子供じゃないか。弟といい勝負……いや、それより幼い)


 そう思いながら、ミアは笑顔を引き攣らせつつ、皇子を再度座るように勧めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

後宮の偽物~冷遇妃は皇宮の秘密を暴く~

山咲黒
キャラ文芸
偽物妃×偽物皇帝 大切な人のため、最強の二人が後宮で華麗に暗躍する! 「娘娘(でんか)! どうかお許しください!」 今日もまた、苑祺宮(えんきぐう)で女官の懇願の声が響いた。 苑祺宮の主人の名は、貴妃・高良嫣。皇帝の寵愛を失いながらも皇宮から畏れられる彼女には、何に代えても守りたい存在と一つの秘密があった。 守りたい存在は、息子である第二皇子啓轅だ。 そして秘密とは、本物の貴妃は既に亡くなっている、ということ。 ある時彼女は、忘れ去られた宮で一人の男に遭遇する。目を見張るほど美しい顔立ちを持ったその男は、傲慢なまでの強引さで、後宮に渦巻く陰謀の中に貴妃を引き摺り込もうとする——。 「この二年間、私は啓轅を守る盾でした」 「お前という剣を、俺が、折れて砕けて鉄屑になるまで使い倒してやろう」 3月4日まで随時に3章まで更新、それ以降は毎日8時と18時に更新します。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...