次に会うときは友だち

蒼キるり

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「友だちがいないことを母さんがすごく気にしてて……兄さんはたくさん友だちがいて、スポーツもできて、勉強はちょっと微妙だけど、すごく明るくて元気なのに、弟の僕は友だちの一人もいないでいつも暗くて独り言ばっかり言う可哀想な子だって……電話で誰かに相談してるのとか聞いちゃって。僕にも友だちできた? ってすごい聞いてくるし」

「え、ああ、つらいね、そりゃ。気まずいよ」

「そうなんです。別に毎日それなりに楽しく過ごしてるのに。でもなんていうか、僕だって友だちが欲しくないってわけじゃないんですよ? だけど……同級生には既にもう気味悪がられてるっていうか、ないものとして扱われてるっていうか、そんな感じで手遅れで」


 若干うつむきながら言われて、どう励ましたものかと考えるのに良い言葉ひとつ浮かんでこない。


「えと、気味悪がられるって、なんで」

「僕、霊感あるんで。できるだけバレないようにしてるんですけど、難しいっていうか。幽霊と人間の見分けあんまつかないんですよね。だからうっかり反応とかしちゃって不審がられて。何もないところで笑ったり返事したりしてるように見えるらしく。で、気味の悪いやばいやつだと」

「うおう、思ったより深刻だったな。なるほど、見分けがつかない、なるほどね。確かにそうだわ。にしてもそれは困るね、うん。はじめましてー! 転校生? 仲良くしようねー! って話しかけたら幽霊で、え、なんかくそでか独り言喋ってね? って思われるってことだもんね?」


 くす、と笑われてしまう。私の馬鹿さがすごかったのかもしれないが、笑える余裕があるならよかった。


「えーと、で、聞いてもいいのかな。あのー、それでなんで死ぬ一歩手前まで行きたい、なんてことに?」

「……僕と見える世界が違うから、上手く友達になれないのかなと思って。だったら僕が合わせればいいのかなって。やっぱり同じ価値観だったり、同じものが見えてたり、そういう方が友達になりやすいかなって思いますし」

「な、なるほど?」


 わかったような、わからないような……と首を傾げていると伝わってないと察してくれたのか付け足してくれる。


「えーと、死にかけた人が幽霊が視えるようになった、みたいな話を聞いたので逆もまた然りなのではないかと。なので物は試しだとこの学校に入らせてもらいました。うちの小学校は屋上が完全に閉鎖されてるので」

「あー、なるほど。それならわかる。屋上から飛び降りて死にかけて霊感のない自分になり友達を作るという作戦ね? 頭良いね~! いや危ないから全然推奨しないけどもね?」


 よし、やってみなよ! なんて言えるはずもない。まあその辺はわかってくれたらしく「この方法はやめておきます」と言ってくれた。
 うん、一安心。私が帰ってから飛び降りられたらと思うとおちおち家にも帰れないからな。いやまだ気まずいから帰らないのだが。
 帰らない、というよりも、もう本当の意味では帰れない、という言う方が正しかったりするのかな。でもこの子はそうじゃないよね。歳上の人間として、少しでも帰りやすくしてあげたいな。


「君自身はさ、友達はできることなら欲しいけど、本当は死ぬような思いをしたくないんだよね?」

「そりゃ痛いのはできるだけ避けたいですよ。やむを得ないので我慢しようとしただけで」

「そうだよね、痛いのやだよね、私も嫌。経験から言わせてもらうと死ぬほど痛いのってまじで嫌だよ、やめておいた方がいい」


 それにね、と屈んで視線を合わせながら言う。


「違ったらごめん。君のお母さんのことよく知らないから、君から聞いたことでしか知らないから、違ったらごめんね。君のお母さんは心配性なんだよね。君に友達がいないことを心配して、色々声かけちゃうんだよね。君のことが好きなんだね」

「……たぶん、そう」

「そんなお母さんは、君が死にそうな思いをしたらきっともっと悲しむと思う」


 びっくりしたように目が丸くなる姿に微笑みかける。そうだよね、自分の母親が自分を亡くした時にどんな反応をするかなんて、考えたりしないよね。私もそうだった。
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