君は唯一無二の愛しい子

蒼キるり

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10.愛の証明

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「もう誰もここには寄り付かん」


 生き残った者はみんな出ていった、と老人はひどく悲しそうに続けた。


「まともな人間がこんな所に来るはずがない。道を間違えたんだ。あんたの恋人はきっと他の場所にいる」

「でも……」

「あんたも早く帰りなさい」


 老人は激しく、激しく首を振った。私は老人が手を伸ばしてくるのを咄嗟に振り払った。


「言いたいのは、それだけですか」


 そう言い残して、私は村へと走った。もう待てなかった。だってそこに慎司がいるのだ。私にはわかる。私の足が急ぐのだ。


「あの時、止めていれば……」


 背後から微かに声がした。後悔に満ちた叫びだった。
 ああ、やっぱり見逃した人がいたのかと私は目を細めた。そうでないとおかしい。
 見張りがいたというその中で、誰かが二人を哀れに思って互いの傷の舐め合いだと行為を見過ごしてあげたのだろう。

 完璧に隠し通すというのは、時にとても難しい。それが子どもであるなら尚更だ。でも時に人はそれを知っていて見逃すことがある。
 それは指摘するのを恐れたり、自分の勘違いだと言い聞かせたり、いつか大人になれば普通になるからだと信じたい心からだったりする。
 それを私は誰よりも知っている。

 走って走って走って、私は大きな屋敷の前に来た。損傷が激しく、今にも崩れ落ちそうなそこに一歩足を踏み入れる。


「慎司?」

 そう呼びかけて、ゆっくりゆっくり中へと入る。どこまで行けばいいのだろう。座敷牢とはどこにあるのだろう。ちゃんと聞けば良かった。
 そう思った瞬間、視界の端に錆びついた柵が映った。


「みいつけた」


 そして、そちらを見たその時、後ろから二本の手が私の背中を押して、ぐるぐると何かに巻き込まれるように私は意識を失った。
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