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9.おかしな風習
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この村にはいくつかのおかしな風習があったのだという。それはこの村の村長に子どもが生まれれば十の歳になるまで座敷牢で育てるというものだ。
今ではあり得ないおかしな風習ではあるが、当時はこの村の村長の一族はとても優秀で力のある人間で、この村から出て行ってしまわないようにとそれが魂にまで染み込むように座敷牢に閉じ込めたのだという。
それは村の中で秘匿され、表に出ることはなかった。十を過ぎれば今までは病気をしていたようやく治ったのだと言って表に出るのだから尚更である。
しかしもう一つ、おかしな風習があった。それは子どもがもしも双子であったなら、大人になるまでつまりは倍の二十になるまで閉じ込めておかなければいけないということだ。
双子は普通の子どもとは違い他の子ども以上に力があると思われていたからだという。
そしてそれと同時に双子は忌まわしきものだという古くからの教えに従い他の村長の子どものように丁重には扱われず、食事を減らし痛めつけ、早く力がその身に大人しく眠るようにと躾けられたのだという。
そして、二人はその痛めつけに耐えきれなかったと、その人は語った。
あの二人だ、と私はそう確信した。それ以外に考えられなかった。
「……二人は死んだ」
老人は打ちひしがれたような目をしていた。どうして二人は死んでしまったのだろうと少し不思議に思う。
死なせるつもりはなかったように話の流れでは思ったのだけど、どうして二人は。殺さなければいけないような事態になったとでもいうのか。それはなんだというのか。
「ややこができた」
は、と声が漏れた。村から一瞬目を離す。それくらい衝撃で、そして、ああそうかと納得してしまうものがあった。
あの二人は、あの双子は、姉弟を思うだけの目をしていなかった。熱い肉欲の情を背負って愛を持った瞳だった。子どもに似合わない目をしていた。
「同じ座敷牢に閉じ込めていたからだ。離しておけば良かった。村長がせっかく一緒に生まれてきたのに、離れ離れになるのは可哀想だと言った。自分も座敷牢の中はとても寂しく孤独だったから、せめてこの子達は一緒に居させてくれと」
この人はどうしてこんなに知っているのだろうと少し不思議に思う。まるで見てきたかのようだ。もしかしてその双子の世話でもしていたのだろうか。
「そうして、子どもが出来た。まだ本人たちも子どもだったのに、見張りは何人もいたのに、それでもややこが腹に宿ったと知った時、皆半狂乱だった……そう風の噂で聞いた」
あくまで聞いた話だという風に老人は続ける。
あの子、とはそのややこのことだったのだろうか。あの双子の片割れは愛する片割れの象徴をその身に宿したのだろうか。
いいな、と少し思う。常識に囚われず、してはいけないことだとも思わず、愛を腹に宿せたのはどれほどの幸せだっただろう。
私と慎司の間では議論するまでもなく、互いの人生のために徹底的に排除されたその可能性を少し羨ましく思う。
「ややこを殺せと、こんなことはあってはならないと、座敷牢にいる間は危険なのにと、双子の片割れの女を引っ張り出そうとして、双子の片割れの男がたいそう抵抗したらしい」
その光景がまるで眼に浮かぶようだった。そんなことは許さないだろう。だって二人は二人である以上にひとつだっただろう。
それを引き離すなんて、身体を半分に割くのと同じだ。それがどれだけ苦しいかなんて、私が一番よく知っている。
「そして、力が暴走して、村が少しずつ壊れて、そして、そして、こうなった」
老人がふっと村に目をやって、それからすぐに視線を逸らす。
力、というのは抽象的な、もっというなら宗教的な何かなのかと思っていたのだけど、そうではなかったのだろうか。
現実にある何か、現実に作用するような、そんなものだったとしたら、この村が滅びたのも仕方ないだろう。
愛する者の為ならば、村一つなんてどれだけの足枷になるか。消してしまって何の後悔があるものか。
今ではあり得ないおかしな風習ではあるが、当時はこの村の村長の一族はとても優秀で力のある人間で、この村から出て行ってしまわないようにとそれが魂にまで染み込むように座敷牢に閉じ込めたのだという。
それは村の中で秘匿され、表に出ることはなかった。十を過ぎれば今までは病気をしていたようやく治ったのだと言って表に出るのだから尚更である。
しかしもう一つ、おかしな風習があった。それは子どもがもしも双子であったなら、大人になるまでつまりは倍の二十になるまで閉じ込めておかなければいけないということだ。
双子は普通の子どもとは違い他の子ども以上に力があると思われていたからだという。
そしてそれと同時に双子は忌まわしきものだという古くからの教えに従い他の村長の子どものように丁重には扱われず、食事を減らし痛めつけ、早く力がその身に大人しく眠るようにと躾けられたのだという。
そして、二人はその痛めつけに耐えきれなかったと、その人は語った。
あの二人だ、と私はそう確信した。それ以外に考えられなかった。
「……二人は死んだ」
老人は打ちひしがれたような目をしていた。どうして二人は死んでしまったのだろうと少し不思議に思う。
死なせるつもりはなかったように話の流れでは思ったのだけど、どうして二人は。殺さなければいけないような事態になったとでもいうのか。それはなんだというのか。
「ややこができた」
は、と声が漏れた。村から一瞬目を離す。それくらい衝撃で、そして、ああそうかと納得してしまうものがあった。
あの二人は、あの双子は、姉弟を思うだけの目をしていなかった。熱い肉欲の情を背負って愛を持った瞳だった。子どもに似合わない目をしていた。
「同じ座敷牢に閉じ込めていたからだ。離しておけば良かった。村長がせっかく一緒に生まれてきたのに、離れ離れになるのは可哀想だと言った。自分も座敷牢の中はとても寂しく孤独だったから、せめてこの子達は一緒に居させてくれと」
この人はどうしてこんなに知っているのだろうと少し不思議に思う。まるで見てきたかのようだ。もしかしてその双子の世話でもしていたのだろうか。
「そうして、子どもが出来た。まだ本人たちも子どもだったのに、見張りは何人もいたのに、それでもややこが腹に宿ったと知った時、皆半狂乱だった……そう風の噂で聞いた」
あくまで聞いた話だという風に老人は続ける。
あの子、とはそのややこのことだったのだろうか。あの双子の片割れは愛する片割れの象徴をその身に宿したのだろうか。
いいな、と少し思う。常識に囚われず、してはいけないことだとも思わず、愛を腹に宿せたのはどれほどの幸せだっただろう。
私と慎司の間では議論するまでもなく、互いの人生のために徹底的に排除されたその可能性を少し羨ましく思う。
「ややこを殺せと、こんなことはあってはならないと、座敷牢にいる間は危険なのにと、双子の片割れの女を引っ張り出そうとして、双子の片割れの男がたいそう抵抗したらしい」
その光景がまるで眼に浮かぶようだった。そんなことは許さないだろう。だって二人は二人である以上にひとつだっただろう。
それを引き離すなんて、身体を半分に割くのと同じだ。それがどれだけ苦しいかなんて、私が一番よく知っている。
「そして、力が暴走して、村が少しずつ壊れて、そして、そして、こうなった」
老人がふっと村に目をやって、それからすぐに視線を逸らす。
力、というのは抽象的な、もっというなら宗教的な何かなのかと思っていたのだけど、そうではなかったのだろうか。
現実にある何か、現実に作用するような、そんなものだったとしたら、この村が滅びたのも仕方ないだろう。
愛する者の為ならば、村一つなんてどれだけの足枷になるか。消してしまって何の後悔があるものか。
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