君は唯一無二の愛しい子

蒼キるり

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7.死人の手

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 ひどく冷たく、ぐにゃりとおかしな感触をした手だった。何処かで似たようなものに触れたことがある、と私はふと思った。
 そして思い出して、背中が震えた。祖母の手だ。死んでしまって棺に眠る祖母の手に、この二人の手はひどく似ていた。
 死人の手だ。私いま、死んだ二人に触れているのかもしれない。祖母の時は隣に慎司がいて、熱い生きた手で私の手を握っていた。なのに今は私しかいない。


「弟と私とかわいいあの子のお家においで」

「姉と僕と愛しいあの子のお家においで」


 二人が笑いながらそう言うと、まるで記憶が脳に流し込まれるように断片的な記憶が幾つも幾つも見えた。
 寂れた無人駅。草の生えた道並み。掠れた標識。暗く人気の無い廃村。大きいけれど壊れかかった御屋敷。そして、座敷牢。
 それらが見えて、私はここに行けば良いのだと、怖いほどはっきりと理解した。
 ちゃんと行くから待ってて、と私が口を開こうとした時にはもう、双子の姿はなかった。
 ただ、つい先程まで触れていた手の冷たさだけが残っていた。



 私は真っ直ぐに駅に向かった。行くべきところは、不思議なほどにはっきりと分かっていた。
 片道切符を買って電車に乗り込む。こんな状況、どう考えてもおかしいのに不思議と怖くはなかった。まるで夢でも見ているみたいだ。
 ガタガタと鳴る電車の中で慎司が隣にいないことだけが不思議だった。遠くへ行く時はいつだって慎司も一緒だった。私達はいつだって二人で一人だった。
 慎司が数日前に私と同じようにこの電車に乗り込んだと思えば、何も怖くはなかった。

 そういえば、と私はふと思う。あの双子が言っていたあの子とは慎司のことだろうか。それとも他にいるのだろうか。
 とても愛おしそうに呼んでいたあの子とやらが少し気になって、でも電車に揺られてここしばらくの睡眠不足が刺激されてしまう。
 うとうと、と私は慎司に会えることを心待ちにしながらいつしか眠りに就いていた。
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