8 / 12
7.死人の手
しおりを挟む
ひどく冷たく、ぐにゃりとおかしな感触をした手だった。何処かで似たようなものに触れたことがある、と私はふと思った。
そして思い出して、背中が震えた。祖母の手だ。死んでしまって棺に眠る祖母の手に、この二人の手はひどく似ていた。
死人の手だ。私いま、死んだ二人に触れているのかもしれない。祖母の時は隣に慎司がいて、熱い生きた手で私の手を握っていた。なのに今は私しかいない。
「弟と私とかわいいあの子のお家においで」
「姉と僕と愛しいあの子のお家においで」
二人が笑いながらそう言うと、まるで記憶が脳に流し込まれるように断片的な記憶が幾つも幾つも見えた。
寂れた無人駅。草の生えた道並み。掠れた標識。暗く人気の無い廃村。大きいけれど壊れかかった御屋敷。そして、座敷牢。
それらが見えて、私はここに行けば良いのだと、怖いほどはっきりと理解した。
ちゃんと行くから待ってて、と私が口を開こうとした時にはもう、双子の姿はなかった。
ただ、つい先程まで触れていた手の冷たさだけが残っていた。
私は真っ直ぐに駅に向かった。行くべきところは、不思議なほどにはっきりと分かっていた。
片道切符を買って電車に乗り込む。こんな状況、どう考えてもおかしいのに不思議と怖くはなかった。まるで夢でも見ているみたいだ。
ガタガタと鳴る電車の中で慎司が隣にいないことだけが不思議だった。遠くへ行く時はいつだって慎司も一緒だった。私達はいつだって二人で一人だった。
慎司が数日前に私と同じようにこの電車に乗り込んだと思えば、何も怖くはなかった。
そういえば、と私はふと思う。あの双子が言っていたあの子とは慎司のことだろうか。それとも他にいるのだろうか。
とても愛おしそうに呼んでいたあの子とやらが少し気になって、でも電車に揺られてここしばらくの睡眠不足が刺激されてしまう。
うとうと、と私は慎司に会えることを心待ちにしながらいつしか眠りに就いていた。
そして思い出して、背中が震えた。祖母の手だ。死んでしまって棺に眠る祖母の手に、この二人の手はひどく似ていた。
死人の手だ。私いま、死んだ二人に触れているのかもしれない。祖母の時は隣に慎司がいて、熱い生きた手で私の手を握っていた。なのに今は私しかいない。
「弟と私とかわいいあの子のお家においで」
「姉と僕と愛しいあの子のお家においで」
二人が笑いながらそう言うと、まるで記憶が脳に流し込まれるように断片的な記憶が幾つも幾つも見えた。
寂れた無人駅。草の生えた道並み。掠れた標識。暗く人気の無い廃村。大きいけれど壊れかかった御屋敷。そして、座敷牢。
それらが見えて、私はここに行けば良いのだと、怖いほどはっきりと理解した。
ちゃんと行くから待ってて、と私が口を開こうとした時にはもう、双子の姿はなかった。
ただ、つい先程まで触れていた手の冷たさだけが残っていた。
私は真っ直ぐに駅に向かった。行くべきところは、不思議なほどにはっきりと分かっていた。
片道切符を買って電車に乗り込む。こんな状況、どう考えてもおかしいのに不思議と怖くはなかった。まるで夢でも見ているみたいだ。
ガタガタと鳴る電車の中で慎司が隣にいないことだけが不思議だった。遠くへ行く時はいつだって慎司も一緒だった。私達はいつだって二人で一人だった。
慎司が数日前に私と同じようにこの電車に乗り込んだと思えば、何も怖くはなかった。
そういえば、と私はふと思う。あの双子が言っていたあの子とは慎司のことだろうか。それとも他にいるのだろうか。
とても愛おしそうに呼んでいたあの子とやらが少し気になって、でも電車に揺られてここしばらくの睡眠不足が刺激されてしまう。
うとうと、と私は慎司に会えることを心待ちにしながらいつしか眠りに就いていた。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる