君は唯一無二の愛しい子

蒼キるり

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6.たすけて

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 朝早くの閑散とした道路にまるで相応しくない甲高くはしゃいだ子どもの声だった。
 二人の声がそっくりに揃っていて、まるで一人の声のように聞こえた。
 ぶつりと音を立ててスニーカーの紐が切れたのが、私を振り向かないように押し留めているようだった。
 でもやっぱり私はそれを気にも留めないで、声のする方へと振り返った。

 そこにいたのは間違いなく昨日の二人で、ああと口から声が漏れる。よかった、これで、きっと、慎司に会える。
 私が安堵したのもつかの間、二人はきゃらきゃらと笑い始める。それは最初に夢で見た時の表情とはまるで正反対だった。


「ああ、よかった。やっと会えた」

「やっと会えた。邪魔されて会えないかと思った。よかった」

「よかった。これで助けてもらえる」


 よかった、よかった、よかったねえ、と無邪気な口調と笑顔。
 きつく互いの手を握りしめた二人は私の顔なんて見てやいない。一体なんなんだと目眩がした。


「ねえ、あなたたち、慎司を知ってるの?」


 そう問いかけると、ようやく真っ直ぐに私を見て、それからきょとんと首を傾げた。


「慎司を何処にやったの!」


 知らないなんて言わせない、と私が噛み付くように言うと、ようやく口を開き始める。
 時代にそぐわない着物は夢の中のように汚れてはいなかったけど、その分だけ生からも遠ざかっているようで、二人がいる場所だけどうも浮世離れだけでは言い表せないほどの何かがある。


「しんじ? えーと、うん、そう、慎司」

「そう、慎司。慎司に助けてもらったの。助けてって言ったの」

「助けてって言ったの。そしたらいいよって言ったの。私達のところに来てくれたの」


 ねえ、ねえ、と互いに顔を見て言い合う姿に、どうしても絆されかかってしまうのは、私と慎司を思い出すからか。
 ぱつりと切り揃えられた髪を振って、二人は私に笑いかけた。


「貴女も来て」


 その言葉に体を突き抜けるようにぶわりと風が吹いたような、そんな気がした。


「そしたら、慎司に会えるの?」


 私の問いかけに、にんまりと笑って二人は歌うように続ける。


「うん、会えるよ」

「会えるよ。ずっと一緒だよ」


 その妙に明るい声に恐怖を感じるのに、断ろうとは思わなかった。だって慎司に会えるのだ。それ以上に欲しいものなんてない。


「なら、案内して」


 震える声で確かにそう言ったのに、二人はまるで聞き分けのない幼子を見るような目をしてゆらりゆらりと首を振った。


「貴女の足で、意志で、来なきゃ駄目だよ」

「駄目だよ、ちゃんと一人で来ないと。待ってるから」

「待ってるから。先に帰って、慎司と私達で待ってるから」


 とん、とん、とん、と軽い足取りで二人が私の側までやって来る。
 ぞわり、と本能がこの二人に近づいてはいけないと叫んでいて、思わず一歩下がってしまう。


「だから、早くおいで」


 二人が声をぴたりと揃えて言い、それから私の手にさあっと二人の手が触れた。
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