君は唯一無二の愛しい子

蒼キるり

文字の大きさ
上 下
4 / 12

3.暗い夢の中

しおりを挟む
 暗い暗い闇の中。ぽつん、と一筋の光が灯っていた。
 けれど、例えばここで暮らすにして、それだけに頼るにはあまりに頼りない小さな光だ。
 その光に埋もれるようにして、小さな人影が二つあった。
 それは最初うっかり一つと数えてしまいそうなほどに寄り添いあっていた。
 まるで一つになりたいとでも言うように、二人は互いを深く深く抱き締めている。

 お世辞にも綺麗とは言えない粗末な着物を身に纏った二人の顔は青白く、そして怖いほどにそっくりだった。
 違うところなど一つもない、鏡に映した合ったかのように似通った二人。
 誰も入る隙間がないほどに近く、そして互いのことしか見えていないかのように見つめ合っていた二人が唐突にぐるりと顔の向きを変えた。
 その動作はまるで壊れかけた人形のように不気味で人間離れしていた。



 慎司は人通りが多い場所に行くことを好まなかった。昔からよく人に見られていたからかもしれない。
 私も見られることも人通りが多い場所も好きではないから、慎司の気持ちはよく分かる。
 でも今は人通りの多い所に行きたくないなんて言っていられない。
 早く、早く慎司を探さないと、そんな想いに急き立てられて、大学にも行かず私は闇雲に人が多い場所を探し回っている。
 今朝は昨日より更に早く慎司を探さなければという気持ちが高まったのだ。だからなんの確証もないのに、こうして慎司を探している。
 こんな所にいるはずがないと分かっていながらも、何故かここに足が向かったのだから仕方ない。

 なんだかおかしい、とは少し思っていた。慎司が自分からこんな場所に来ることはないだろうし、もし何かの事件に巻き込まれていたとしてもこんな場所をうろつける余裕があるなら家に帰るだろう。
 それに例の男女の双子を探すなら、こんな所より学校の近くや住宅街の方がいい。こんな平日の歓楽街にはいないだろう。
 それでも、どうしてもこちらに来いと心が騒ぐのだ。それは昨日おかしな夢を見たからかもしれない。


「……なんだったの、あの夢」


 昨日の夢の不可解さに思わず声が漏れた。何を取ってもおかしなところしかない夢だった。
 そしてとても怖い夢でもあった。あの二人は人間のようでいて、それ以外の何かに見えた。
 私があの場にいたはずがないのに、私は気づいていたのだ。二人の目線が明確にこちらを向いていると、何故か気づいていた。それは確かなことだと私は確信していた。
 ああ、それにしても、あの二人は明らかに双子だった。間違いない。
 だから目が覚めた時、あり得ないと思いながらもこう考えてしまったのだ。
 あれは慎司が会ったという双子だったのではないだろうか、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》 【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています】

山を掘る男

ツヨシ
ホラー
いつも山を掘っている男がいた

奇怪未解世界

五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。 学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。 奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。 その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。

ゾンビばばぁとその息子

歌あそべ
ホラー
呼吸困難で倒れ今日明日の命と言われたのに、恐るべき生命力で回復したばあさんと同居することになった息子夫婦。 生まれてこのかたこの母親の世話になった記憶がない息子と鬼母の物語。 鬼母はゾンビだったのか?

野辺帰り

だんぞう
ホラー
現代ではすっかり珍しいものとなった野辺送りという風習がある。その地域では野辺送りに加えて野辺帰りというものも合わせて一連の儀式とされている。その野辺の送りと帰りの儀式を執り行う『おくりもん』である「僕」は、儀式の最中に周囲を彷徨く影を気にしていた。 儀式が進む中で次第に明らかになる、その地域の闇とも言えるべき状況と過去、そして「僕」の覚悟。その結末が救いであるのかどうかは、読まれた方の判断に委ねます。

子籠もり

柚木崎 史乃
ホラー
長い間疎遠になっていた田舎の祖母から、突然連絡があった。 なんでも、祖父が亡くなったらしい。 私は、自分の故郷が嫌いだった。というのも、そこでは未だに「身籠った村の女を出産が終わるまでの間、神社に軟禁しておく」という奇妙な風習が残っているからだ。 おじいちゃん子だった私は、葬儀に参列するために仕方なく帰省した。 けれど、久々に会った祖母や従兄はどうも様子がおかしい。 奇妙な風習に囚われた村で、私が見たものは──。

仮面村

おもちししゃも
ホラー
ふいに訪れた農村の奇怪な風習 大学生の亮は図らずもその一端に触れ、村の因果に巻き込まれていく

トシデンセツ

GF
ホラー
都市伝説ーーー それは誰もが知っているだろう、恐怖の伝説。その都市伝説に出会った者たちの、異能力バトル…!

処理中です...