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十七話
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家に帰る頃には体というよりも精神的に疲労していた。
私も冬真も動く気になれず二人してソファーに座り込んだ。
ああやって世の正論みたいなものをぶつけられると、つくづく私たち三人の関係は心地よかったのだと認識せざるを得ない。
「ごめん、美羽。やっぱり変なこと言われた」
「まあ、予想はしてたから平気。冬真こそ大丈夫?」
「俺は平気」
そう言って笑ってくれたけど、ちっとも大丈夫そうには見えない。作り笑いが下手くそだ。
「……あのさ、酷いかもしれないんだけど言っていい?」
「なんでも言ってよ」
「美羽から繋がりが欲しいって言ったの、なんか分かった気がする。美羽の中に新しい命があるんだって思うたびに繋がりとかそんなものをなんとなく感じる」
恐る恐るといった風に冬真が言うから、酷いことと言うから何事かと思っていた私は、なんだとばかりに肩の力を抜いた。
「でも、こうも思うんだ。もしその子が誠と美羽の子どもじゃなくて、僕と美羽の子どもだったら、死ぬのは僕だったのかなって。いまここで繋がりを感じていたのは誠だったのかなって。そんなはずないのに、もしかしたらそういう小さな積み重ねで運命って変わるのかなって」
酷いこととは思えなかったし、なんとなく冬真の言いたいことは伝わってきた。
「ああ、バラフライ効果ってこと?」
「……なにそれ」
「簡単に言うと、ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすかもしれないって意味」
ますます訳が分からなそうに冬真が首を傾げた。
でもいつものあれだよね、とほんの少し笑いながら言ってくれた。
「日本で言うところの、風が吹けば桶屋が儲かるってやつかな」
「ああ、それは聞いたことある。どういう意味?」
「風が吹いたら土ぼこりが立つ。その土ぼこりが目に入ったら、目が見えなくなる。昔は目が見えない人の多くは三味線を弾く仕事をしてたらしいから、三味線を買う。そしたら三味線に使う猫皮が必要になるから、猫が殺される。猫が減ったら鼠が増える。鼠は桶をかじる。桶の需要が増えるから、桶屋が儲かるっていう、まあこじつけみたいなものかな」
冬真が難解な問題を突きつけられたかのように顔を顰めた。
初めて顔を突き合わせて問題を解いた時よりよほど真剣な顔だ。
「……何と何が繋がってるかわからないってこと?」
「そう。ほんの小さなことでも何かに繋がってるかもしれないって意味だと私は思ってる」
冬真が私と誠に声をかけたことがきっかけで、いま私と冬真が二人でいるように。
「もしかしたら冬真の言う通りかもしれない。そういう一件関係ないことが何かに繋がってるのかもしれない。それは私たちにはわからないことだけどね」
「そっか、わからないのか」
「うん。ああ、でも一つだけ間違ってるのは分かる。私と誠の子どもじゃない。私と誠と冬真、三人の子どもだよ」
うん、と答える冬真の声は少し掠れていた気がするけど、私は聞こえなかったふりをした。
私も冬真も動く気になれず二人してソファーに座り込んだ。
ああやって世の正論みたいなものをぶつけられると、つくづく私たち三人の関係は心地よかったのだと認識せざるを得ない。
「ごめん、美羽。やっぱり変なこと言われた」
「まあ、予想はしてたから平気。冬真こそ大丈夫?」
「俺は平気」
そう言って笑ってくれたけど、ちっとも大丈夫そうには見えない。作り笑いが下手くそだ。
「……あのさ、酷いかもしれないんだけど言っていい?」
「なんでも言ってよ」
「美羽から繋がりが欲しいって言ったの、なんか分かった気がする。美羽の中に新しい命があるんだって思うたびに繋がりとかそんなものをなんとなく感じる」
恐る恐るといった風に冬真が言うから、酷いことと言うから何事かと思っていた私は、なんだとばかりに肩の力を抜いた。
「でも、こうも思うんだ。もしその子が誠と美羽の子どもじゃなくて、僕と美羽の子どもだったら、死ぬのは僕だったのかなって。いまここで繋がりを感じていたのは誠だったのかなって。そんなはずないのに、もしかしたらそういう小さな積み重ねで運命って変わるのかなって」
酷いこととは思えなかったし、なんとなく冬真の言いたいことは伝わってきた。
「ああ、バラフライ効果ってこと?」
「……なにそれ」
「簡単に言うと、ブラジルの一匹の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすかもしれないって意味」
ますます訳が分からなそうに冬真が首を傾げた。
でもいつものあれだよね、とほんの少し笑いながら言ってくれた。
「日本で言うところの、風が吹けば桶屋が儲かるってやつかな」
「ああ、それは聞いたことある。どういう意味?」
「風が吹いたら土ぼこりが立つ。その土ぼこりが目に入ったら、目が見えなくなる。昔は目が見えない人の多くは三味線を弾く仕事をしてたらしいから、三味線を買う。そしたら三味線に使う猫皮が必要になるから、猫が殺される。猫が減ったら鼠が増える。鼠は桶をかじる。桶の需要が増えるから、桶屋が儲かるっていう、まあこじつけみたいなものかな」
冬真が難解な問題を突きつけられたかのように顔を顰めた。
初めて顔を突き合わせて問題を解いた時よりよほど真剣な顔だ。
「……何と何が繋がってるかわからないってこと?」
「そう。ほんの小さなことでも何かに繋がってるかもしれないって意味だと私は思ってる」
冬真が私と誠に声をかけたことがきっかけで、いま私と冬真が二人でいるように。
「もしかしたら冬真の言う通りかもしれない。そういう一件関係ないことが何かに繋がってるのかもしれない。それは私たちにはわからないことだけどね」
「そっか、わからないのか」
「うん。ああ、でも一つだけ間違ってるのは分かる。私と誠の子どもじゃない。私と誠と冬真、三人の子どもだよ」
うん、と答える冬真の声は少し掠れていた気がするけど、私は聞こえなかったふりをした。
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