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十三話
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平日でもこの病院の産婦人科は人が多い。
家から一番近い病院を選んだら随分と人気な所だったのは少々の誤算だったけど仕方ない。
元々通っていた病院でも産むことは出来たのだろうけど、変えるつもりだったし遠い場所だったことだし。
それにしても内診は何度してもやはり慣れない。
いや、あれが一番確実な方法なんだろうな。長年の研究の結果なんだろうな。
ということはなんとなく理解するけれど、やっぱりちょっと物理的過ぎるのではと思う。
初めて行った時は調べてたとはいえ普通に恐怖だった。
あと何度繰り返すのだろうと数えるのも億劫だ。
というかあれ以上に怖くて苦しくて辛いのが出産かと思うと寒気すらしてくる。
「美羽、大丈夫? 体調悪い?」
付き添いで付いて来てくれている冬真が待合室に座る私の隣に立ちながら、心配そうに尋ねてくる。
もうすぐ呼ばれると思うんだけど、とちらちら受付の方を見る冬真を見ていると何故か少し笑ってしまった。
ああ、どんなに怖かろうと苦しかろうと辛かろうと、やってやろうと、なんとかなるだろう思えるのは冬真がいるからだろう。
そうでなきゃこんなに頑張れないし、頑張れなかった。
誠がいてくれればなぁ。そしたらもっと心強いのに。
そんな考えても仕方のないことばかり考えてしまう。
「呼ばれて、会計が済めば帰れるから」
「うん、平気」
すっかり心配そうな顔が染み付いてしまった冬真の顔を眺める。
いつかあのふわふわと掴み所のない笑顔の冬真に戻る日が来るのだろうか。
それともずっとこのままなのだろうか。
どちらだって冬真であることになんの変わりもないから、私は冬真のそばに今もこれからもずっといるのだけど。
「ねえ、冬真帰りに寄って帰りたいところがあるんだけど」
「大丈夫? 俺、買ってくるよ」
「週末に冬真の両親に渡す手土産なんだけど、冬真一人で選べるの?」
私の意地悪な質問に、苦々しげな顔で首を振られてしまった。適材適所というものがある。
別に私もセンスがある方ではないから期待はしないでほしいのだけど。
うちの結婚の挨拶は終わったけれど、冬真の家の結婚の挨拶はまだこれからだ。
まあ、うちも一筋縄ではいかなかったけど。
散々偽装結婚か何かではないかと疑われた。
例え恋愛感情でなかったとしても犯罪でない限り自由だと思うのだけど、我が母親ながら頭がとてつもなく硬い。
なんとか恋人同士だと騙してからはやれ婚前交渉だのなんだの言われたけど放っておいてくれという感じだ。
生まれる子どもに関わらせたくない人のトップテンには入る。それもそれですごい。
ちなみにこんな状況でも我関せずだった父親は逆にすごいと思った。
あの人の頭には蝶しか飛んでいない。あの人なら、まあ会わせるくらいはいいかなと思う。
「多分、俺が結婚ってだけでめちゃくちゃ喜んでるから、そんなに変なことは言われないと思う。多分」
「多分が多くていまいち信用ならないけど、まあ信じておく」
考えることは山積みだ。
出来ればそういったことに構ってる暇はないと言いたいところなのだけど、むしろなんの報告もなく結婚して後々文句を言われる方が面倒だ。
その代わり今後は浅く浅く浅く遠いお付き合いを心がけていきたいと思う。
こんな時になんとかなるとぶった切ってくれる誠がいればなぁ、と私はまた考えても仕方ないことを考えるのだ。
家から一番近い病院を選んだら随分と人気な所だったのは少々の誤算だったけど仕方ない。
元々通っていた病院でも産むことは出来たのだろうけど、変えるつもりだったし遠い場所だったことだし。
それにしても内診は何度してもやはり慣れない。
いや、あれが一番確実な方法なんだろうな。長年の研究の結果なんだろうな。
ということはなんとなく理解するけれど、やっぱりちょっと物理的過ぎるのではと思う。
初めて行った時は調べてたとはいえ普通に恐怖だった。
あと何度繰り返すのだろうと数えるのも億劫だ。
というかあれ以上に怖くて苦しくて辛いのが出産かと思うと寒気すらしてくる。
「美羽、大丈夫? 体調悪い?」
付き添いで付いて来てくれている冬真が待合室に座る私の隣に立ちながら、心配そうに尋ねてくる。
もうすぐ呼ばれると思うんだけど、とちらちら受付の方を見る冬真を見ていると何故か少し笑ってしまった。
ああ、どんなに怖かろうと苦しかろうと辛かろうと、やってやろうと、なんとかなるだろう思えるのは冬真がいるからだろう。
そうでなきゃこんなに頑張れないし、頑張れなかった。
誠がいてくれればなぁ。そしたらもっと心強いのに。
そんな考えても仕方のないことばかり考えてしまう。
「呼ばれて、会計が済めば帰れるから」
「うん、平気」
すっかり心配そうな顔が染み付いてしまった冬真の顔を眺める。
いつかあのふわふわと掴み所のない笑顔の冬真に戻る日が来るのだろうか。
それともずっとこのままなのだろうか。
どちらだって冬真であることになんの変わりもないから、私は冬真のそばに今もこれからもずっといるのだけど。
「ねえ、冬真帰りに寄って帰りたいところがあるんだけど」
「大丈夫? 俺、買ってくるよ」
「週末に冬真の両親に渡す手土産なんだけど、冬真一人で選べるの?」
私の意地悪な質問に、苦々しげな顔で首を振られてしまった。適材適所というものがある。
別に私もセンスがある方ではないから期待はしないでほしいのだけど。
うちの結婚の挨拶は終わったけれど、冬真の家の結婚の挨拶はまだこれからだ。
まあ、うちも一筋縄ではいかなかったけど。
散々偽装結婚か何かではないかと疑われた。
例え恋愛感情でなかったとしても犯罪でない限り自由だと思うのだけど、我が母親ながら頭がとてつもなく硬い。
なんとか恋人同士だと騙してからはやれ婚前交渉だのなんだの言われたけど放っておいてくれという感じだ。
生まれる子どもに関わらせたくない人のトップテンには入る。それもそれですごい。
ちなみにこんな状況でも我関せずだった父親は逆にすごいと思った。
あの人の頭には蝶しか飛んでいない。あの人なら、まあ会わせるくらいはいいかなと思う。
「多分、俺が結婚ってだけでめちゃくちゃ喜んでるから、そんなに変なことは言われないと思う。多分」
「多分が多くていまいち信用ならないけど、まあ信じておく」
考えることは山積みだ。
出来ればそういったことに構ってる暇はないと言いたいところなのだけど、むしろなんの報告もなく結婚して後々文句を言われる方が面倒だ。
その代わり今後は浅く浅く浅く遠いお付き合いを心がけていきたいと思う。
こんな時になんとかなるとぶった切ってくれる誠がいればなぁ、と私はまた考えても仕方ないことを考えるのだ。
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