蝶の羽ばたき

蒼キるり

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十一話

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 三人で選んだ進路は多分間違いではなかったのだと思う。
 その証拠に私はこの職場をかなり気に入っている。
 この辺りがいいと決めた地域の中で、出来れば転勤がない仕事がいいと選んだのは私立の小学校の事務職だった。

 ちょうど退職した人がいたらしく、就職できたのは幸いだった。給料もいいし。
 とはいえ学校というものを好んでいなかった私が自分が通っていた所とは違うとはいえ小学校で働くことになるとは。
 人生って分からないものだ。


「じゃあ産休はこの日程で取る予定なのね。でもまだ先のことだし、何か変わったら遠慮なく言ってちょうだい。体調にも気をつけなきゃいけないだろうし」

「はい、よろしくお願いします」


 上司とこの先の予定を話し合うのはなんだか不思議な感じがした。
 二人の子どもがいるという彼女は妊娠のことを報告した時も婚姻届を出すのはこれからだと伝えた時も、とても優しく接してくれている。
 ああ、でももしも予定通りにいっていれば、結婚はしないと伝えなければいけなかったのだろう。そしたら今と対応は違ったのだろうか。
 おかしな人だとレッテルを貼られて、優しくなんてしてくれなかったのだろうか。

 なんて考えても仕方ないことを思う。
 他人からの、世間からの評価なんて考えるだけ馬鹿らしいのだから。
 プライベートな話だからと、休憩室を使っての会話を終えて廊下に出る。
 休み時間だからだろう。数人の生徒たちが楽しそうに話しながら歩いていた。
 元気に挨拶されたのでこちらも返事をする。
 私はあの年頃にあんなに無邪気に笑えていただろうか。

 それとも大人の目から見ると子どもは無邪気に見えるだけで、みんなそれぞれ悩んだり傷ついたり苦しんでいたりするのだろうか。
 大人になるというのは鈍感になるということなのかもしれない。
 ああ、そうだ。いま私の腹の中で育ちつつあるこの子も、いつか学校に通うようになるのだろう。そんなことをふと思った。
 そういったことも考えなければいけないのだろう、きっと。

 正直に言って、そこは私の管轄外のつもりだったから、これからよく調べて考えなければいけない。
 人の命を育てていくって大変なことだ。
 私に似て学校が好かないということもあるかもしれない。
 勉強は大切だけど、それは必ずしも学校でしなければいけないことではないのだから、別に行かなくたって構わない。

 その時はその時でどうすればいいのか考えればいいことだ。
 私と冬真で。誠がいないとバッサリと意見を言う人がいないから、話し合いが堂々巡りになりそうな気がしてそれは少しだけ怖い。
 私たちは元々三人で生きていくのが、つくづく性に合っていたのだと思う。
 そこまで考えて、でも誰がどう言おうとこの子は私たちの子なのだからと、自分を奮い立たせた。
 この子は私と冬真と誠の三人の子どもなのだから。
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