蝶の羽ばたき

蒼キるり

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九話

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 二人きりで朝食を食べるのはまだ慣れない。
 少し前までは一人暮らしをしていたから一人で食べていたし、この家に泊まりに来るときは冬真と誠と私の三人で食べていたから。


「今日、早く上がれそうだったら迎えに行くよ」


 まだ欠伸をしている私とは違い、しっかり目が覚めているらしい冬真が突然そんなことを言った。


「忙しいんじゃないの? 別に私は一人でも大丈夫だから」

「俺が大丈夫じゃないの」


 困ったように笑う冬真を見ていたら、その善意を無駄にはできなくて、曖昧に頷いてしまった。


「でも定期健診だけだよ」


 妊娠が確認された後にこんなに病院に通わなければいけないなんて、きちんと調べるまでは知らなかった。
 全く世の中の妊婦というのは大変なものだ。健康保険もお金を払ってはくれないし。


「俺、エコー写真見るの好きだよ」

「いや、冬真が来なくてもちゃんと持って帰ってくるよ」


 過保護だなぁと苦笑いしながら少し思う。
 でもまあ仕方のないことだとも思うし、私も人のことは言えないから口にはしない。
 気持ちはわかる。悩んでもどうにもならないから気にしないようにしてるだけだ。私は妊娠するまでが大変だったから、なんとなく今も安心は出来ていない。
 でもむしろ生まれてからの方が心配だ。

 冬真と二人で育てていく予定はなかったから、プランが全くと言っていいほど立てられていない。
 まあ、どうにか頑張るしかないのだけど。
 ああ、でも、そうか。私は母親になるのか。
 そういうつもりはあまりなかったから、今更ながら少し戸惑ってしまう。
 私はまだ心もとない腹部をそっと撫でた。
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