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五話
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夜中に胸辺りの気持ち悪さで目が覚めた。
吐いてしまうほどではないものの、すぐには眠りにつけそうにない。
眠ってから少しして胃が空っぽになると気分が悪くなるのはいつものことだけど慣れることはない。
早く落ち着かないだろうかと思うのだけど、悪阻が続く体質の人もいるらしいから憂鬱になる。
ベッドの上で体をよじり、なんとか体を起こした。
起こして悪いな、と思いながらも隣で眠る冬真の肩を揺する。
初めは少し遠慮したのだけど、起こさない方が後で心配されるから起こしてしまうのはもう仕方ない事だと思っている。
「……まこと」
冬真が小さく声を漏らす。
切なげな響きを持っているのに冬真の目からは涙すら流れない。
誠の葬式ではあんなに泣いたというのに、いまの冬真は泣かない。
泣いてはいけないと思っているのだろうか。
数秒経って冬真がぱっと目を開いた。
勢いよく体を起こしても、もともと二人用のベッドはきしりとほんの少し軋んだだけだった。
「美羽、大丈夫?」
冬真はすぐに目を覚まして、ベッドのそばに置いてある上着を私の肩にかけてくれた。
心配そうに私の顔を覗き込んで、大丈夫だろうかと額や頬に優しく触れてくるのがくすぐったかった。
「なんか食べる?持って来ようか」
「ううん、起きる」
「ほんと?……でも無理しちゃだめだよ」
冬真の言葉に甘えてここで待つことにした。
昼間にグレープフルーツを買ってもらってよかった。
無性に酸っぱいものが食べたくて堪らない。
冬真を待つ間、中学の頃に私たちの関係を勘繰られてやたらと苛立っていた時のことを思い出した。
馬鹿馬鹿しい、と心の中で吐き捨てた想いは実は今も変わっていない。
表面だけをなぞるように見て、それだけで判断を下すなんて馬鹿馬鹿しいと以外になんと言えばいいのだろう。
だから昔の私は安心してほしい。
私と冬真は結婚すると決めた時も、いまこの瞬間さえ、ずっと親友のままなのだから。
吐いてしまうほどではないものの、すぐには眠りにつけそうにない。
眠ってから少しして胃が空っぽになると気分が悪くなるのはいつものことだけど慣れることはない。
早く落ち着かないだろうかと思うのだけど、悪阻が続く体質の人もいるらしいから憂鬱になる。
ベッドの上で体をよじり、なんとか体を起こした。
起こして悪いな、と思いながらも隣で眠る冬真の肩を揺する。
初めは少し遠慮したのだけど、起こさない方が後で心配されるから起こしてしまうのはもう仕方ない事だと思っている。
「……まこと」
冬真が小さく声を漏らす。
切なげな響きを持っているのに冬真の目からは涙すら流れない。
誠の葬式ではあんなに泣いたというのに、いまの冬真は泣かない。
泣いてはいけないと思っているのだろうか。
数秒経って冬真がぱっと目を開いた。
勢いよく体を起こしても、もともと二人用のベッドはきしりとほんの少し軋んだだけだった。
「美羽、大丈夫?」
冬真はすぐに目を覚まして、ベッドのそばに置いてある上着を私の肩にかけてくれた。
心配そうに私の顔を覗き込んで、大丈夫だろうかと額や頬に優しく触れてくるのがくすぐったかった。
「なんか食べる?持って来ようか」
「ううん、起きる」
「ほんと?……でも無理しちゃだめだよ」
冬真の言葉に甘えてここで待つことにした。
昼間にグレープフルーツを買ってもらってよかった。
無性に酸っぱいものが食べたくて堪らない。
冬真を待つ間、中学の頃に私たちの関係を勘繰られてやたらと苛立っていた時のことを思い出した。
馬鹿馬鹿しい、と心の中で吐き捨てた想いは実は今も変わっていない。
表面だけをなぞるように見て、それだけで判断を下すなんて馬鹿馬鹿しいと以外になんと言えばいいのだろう。
だから昔の私は安心してほしい。
私と冬真は結婚すると決めた時も、いまこの瞬間さえ、ずっと親友のままなのだから。
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