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第一章 出会い編
出会い編 11
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11.
「(はわわわわ……イケメンんん!)」
倉庫の方へと引っ込んでしまった悠介は、真っ赤な顔で先程の柊一郎とのやり取りを思い返していた。間近で見た柊一郎はこれまで見たことがないほどにイケメンで悠介のド好みで。高鳴る鼓動を抑えきれず、溢れんばかりの本がきれいに整理された、人が一人立てる間隔で所狭しと並ぶ本棚の間で右往左往している。そして後から着いて来たニャーに呆れた視線を向けられていた。
「せっかくニャーが連れて来たのに! にゃにやってるニャ」
ニャーは悠介の肩に飛び乗り首に巻き付きながら尻尾で悠介の頬を撫でる。
「だっだって! 急にそんな……こうふ、緊張しちゃうよう!」
「……今、興奮って言おうとしたニャ」
「そ、そんなことないし!」
「柊一郎とお近付きににゃるチャンスニャ」
ニャーの言葉に、興奮していた悠介の言葉がグッと詰まる。ニャーの言いたい言葉がすぐに分かり、悠介は困った表情をして細長い指でニャーの腰を撫でながら小さく笑った。
「お近付きにだなんて……ならなくていいんだよ。前にも言ったでしょ? 見てるだけでいいんだよ」
従順そうに見えて――もちろんそういう面も持ち合わせてはいるが――一度決めるとなかなか考えを覆さない頑固なところもある悠介にニャーは頭を悩ませる。柊一郎と過ごした日々を振り返れば、柊一郎の人となりを知った今では、絶対に大丈夫だと思うのに。むしろあれほど真っ直ぐで真面目な男はそうそういない。しかも悠介の好みで相手も悠介に好意を持っているのだ。ニャーはなんとかして悠介の閉じてしまった心を開きたかった。大切な悠介の、子供の頃のように幸せそうに笑う顔が見たかった。悠介の優しくて穏やかで可愛い笑顔を、取り戻したかった。
「どうしてニャーを信じにゃいニャ」
「……信じてないわけじゃないよ……俺が臆病なだけ。それに、何度も言ってるでしょ? 俺は……ニャーがいてくれたら本当にそれだけで幸せなんだってぇ」
困ったように笑う悠介に、ニャーは胸が締め付けられる。こんな顔をさせたいわけじゃない。柊一郎なら、悠介を大事にしてくれる。ニャーの普通の猫とは違う第六感がそういっている。第六感がなくても分かる。
「ニャーは人を見る目があるニャーニャ」
「うん。ニャーは俺より何倍も見る目があるし賢いもん」
もちろんこれ程までに好みの柊一郎が気にならないわけはないが、人を好きになる事に臆病になってしまった悠介には一歩踏み出す勇気などない。このままニャーと静かに穏やかに平和に暮らしたいのだ。
「さ、そろそろ戻ろうか。柊一郎さん、ニャーのこと待ってるかも」
「……きっと悠介を待ってるニャ」
ニャーが悠介から飛び降りながら呟くが、悠介には聞こえなかった。ニャーは溜め息を吐いて悠介を見つめたが、柊一郎に任せるしかにゃいか、と作戦を考えならが悠介の後に続いた。
そして悠介はニャーが自分の事を大切に思ってくれている事は素直に嬉しくて、それだけを心に留めて本で埋め尽くされている倉庫から店内へと戻った。
※※※
「あ、すみません」
悠介とニャーが店内へ戻ると、倉庫が見えるレジの横でずっと待っていたのか柊一郎が声を掛けてきた。
「っ!!」
悠介はまさか自分が声をかけられるとは思わずに――本気でニャーのことを待っていると思っていた――ビクリ、と大きく肩を跳ね上げ再び大袈裟なくらいに驚いてしまい、恥ずかしさに真っ赤になってしまった。
「(ひぃ! まさかの俺ぇぇ!? ニャーじゃないの!?)」
脳内の騒がしさとは裏腹に悠介は小さい口を小さくパクパクと動かしながら視線をあちらこちらに彷徨わせている。あ、あそこの本ズレてる、と時折現実逃避をしながらぎこちない動きで本棚の陰に移動した。無意識の行動だった。
「……あ、あの……この本、買いたいんですけど……」
悠介の予想だにしない行動に驚ろいている様子の柊一郎の優しい声にときめきながらも、柊一郎が言葉を発する度に悠介の視線が虚空を見つめる。お客さんだしこんなんじゃだめだと思うが、コミュ障とドストライクのイケメンにどうすることもできずにいると、不意にニャーが悠介の肩に飛び乗った。
「悠介、柊一郎は本を買うって言ってるニャ」
いつものニャーの声と体温に安心して、なんとか少し落ち着きを取り戻した悠介は、ひとつ息を呑むと勇気を振り絞り本棚の陰から出て再びぎこちない動きでレジへと移動する。右手と右足が一緒に出ているが悠介はそれどころではないのだ。落ち着きを取り戻したとはいっても、ほんの少しだけで緊張が解けたわけではない。それでも、ニャーが側にいるだけで安心する。
「お、おまた、せして……すす、すみません……あの、お、お会計で、いいですか」
しどろもどろで小さな声だったが、なんとか言葉を出せた事に小さく息を吐く。しかし視線を合わせることなどできるはずもなく、悠介は柊一郎の肩の向こうに視線を遣りながら、柊一郎から差し出された本を受け取った。
「(はわわわわ……イケメンんん!)」
倉庫の方へと引っ込んでしまった悠介は、真っ赤な顔で先程の柊一郎とのやり取りを思い返していた。間近で見た柊一郎はこれまで見たことがないほどにイケメンで悠介のド好みで。高鳴る鼓動を抑えきれず、溢れんばかりの本がきれいに整理された、人が一人立てる間隔で所狭しと並ぶ本棚の間で右往左往している。そして後から着いて来たニャーに呆れた視線を向けられていた。
「せっかくニャーが連れて来たのに! にゃにやってるニャ」
ニャーは悠介の肩に飛び乗り首に巻き付きながら尻尾で悠介の頬を撫でる。
「だっだって! 急にそんな……こうふ、緊張しちゃうよう!」
「……今、興奮って言おうとしたニャ」
「そ、そんなことないし!」
「柊一郎とお近付きににゃるチャンスニャ」
ニャーの言葉に、興奮していた悠介の言葉がグッと詰まる。ニャーの言いたい言葉がすぐに分かり、悠介は困った表情をして細長い指でニャーの腰を撫でながら小さく笑った。
「お近付きにだなんて……ならなくていいんだよ。前にも言ったでしょ? 見てるだけでいいんだよ」
従順そうに見えて――もちろんそういう面も持ち合わせてはいるが――一度決めるとなかなか考えを覆さない頑固なところもある悠介にニャーは頭を悩ませる。柊一郎と過ごした日々を振り返れば、柊一郎の人となりを知った今では、絶対に大丈夫だと思うのに。むしろあれほど真っ直ぐで真面目な男はそうそういない。しかも悠介の好みで相手も悠介に好意を持っているのだ。ニャーはなんとかして悠介の閉じてしまった心を開きたかった。大切な悠介の、子供の頃のように幸せそうに笑う顔が見たかった。悠介の優しくて穏やかで可愛い笑顔を、取り戻したかった。
「どうしてニャーを信じにゃいニャ」
「……信じてないわけじゃないよ……俺が臆病なだけ。それに、何度も言ってるでしょ? 俺は……ニャーがいてくれたら本当にそれだけで幸せなんだってぇ」
困ったように笑う悠介に、ニャーは胸が締め付けられる。こんな顔をさせたいわけじゃない。柊一郎なら、悠介を大事にしてくれる。ニャーの普通の猫とは違う第六感がそういっている。第六感がなくても分かる。
「ニャーは人を見る目があるニャーニャ」
「うん。ニャーは俺より何倍も見る目があるし賢いもん」
もちろんこれ程までに好みの柊一郎が気にならないわけはないが、人を好きになる事に臆病になってしまった悠介には一歩踏み出す勇気などない。このままニャーと静かに穏やかに平和に暮らしたいのだ。
「さ、そろそろ戻ろうか。柊一郎さん、ニャーのこと待ってるかも」
「……きっと悠介を待ってるニャ」
ニャーが悠介から飛び降りながら呟くが、悠介には聞こえなかった。ニャーは溜め息を吐いて悠介を見つめたが、柊一郎に任せるしかにゃいか、と作戦を考えならが悠介の後に続いた。
そして悠介はニャーが自分の事を大切に思ってくれている事は素直に嬉しくて、それだけを心に留めて本で埋め尽くされている倉庫から店内へと戻った。
※※※
「あ、すみません」
悠介とニャーが店内へ戻ると、倉庫が見えるレジの横でずっと待っていたのか柊一郎が声を掛けてきた。
「っ!!」
悠介はまさか自分が声をかけられるとは思わずに――本気でニャーのことを待っていると思っていた――ビクリ、と大きく肩を跳ね上げ再び大袈裟なくらいに驚いてしまい、恥ずかしさに真っ赤になってしまった。
「(ひぃ! まさかの俺ぇぇ!? ニャーじゃないの!?)」
脳内の騒がしさとは裏腹に悠介は小さい口を小さくパクパクと動かしながら視線をあちらこちらに彷徨わせている。あ、あそこの本ズレてる、と時折現実逃避をしながらぎこちない動きで本棚の陰に移動した。無意識の行動だった。
「……あ、あの……この本、買いたいんですけど……」
悠介の予想だにしない行動に驚ろいている様子の柊一郎の優しい声にときめきながらも、柊一郎が言葉を発する度に悠介の視線が虚空を見つめる。お客さんだしこんなんじゃだめだと思うが、コミュ障とドストライクのイケメンにどうすることもできずにいると、不意にニャーが悠介の肩に飛び乗った。
「悠介、柊一郎は本を買うって言ってるニャ」
いつものニャーの声と体温に安心して、なんとか少し落ち着きを取り戻した悠介は、ひとつ息を呑むと勇気を振り絞り本棚の陰から出て再びぎこちない動きでレジへと移動する。右手と右足が一緒に出ているが悠介はそれどころではないのだ。落ち着きを取り戻したとはいっても、ほんの少しだけで緊張が解けたわけではない。それでも、ニャーが側にいるだけで安心する。
「お、おまた、せして……すす、すみません……あの、お、お会計で、いいですか」
しどろもどろで小さな声だったが、なんとか言葉を出せた事に小さく息を吐く。しかし視線を合わせることなどできるはずもなく、悠介は柊一郎の肩の向こうに視線を遣りながら、柊一郎から差し出された本を受け取った。
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