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【第3部】序章 単独公務

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初めての単独公務についてクレイン殿下から知らされた日の翌日に、私は王妃様から正式に王母様に贈り物を贈る任を仰せつかった。

「マーレット、贈り物を選ぶに際して、2つ守らなければならない事があります」

私は、王妃様の言葉を聞き漏らさないように集中する。

「1つ、王母様の事を想い、真心を込めて贈り物を選ぶこと」

私は、心の中で王妃様の言葉を復唱する。

「1つ、贈り物を何にするかは、あなた自身で決めること。この2つを守れば、あなたの贈り物について、誰も咎めたりすることはないわ」

王妃様は、私に一枚の紙を差し出した。

「参考として、これを渡しておくわ。王母様が、今まで受け取られた贈り物の一覧よ」

私は、過去の贈り物が記された一覧表を王妃様から受け取る。

「マーレット、あなたが王母様のことを想い、心を込めて贈った贈り物であれば、誰もあなたを咎めたりしないわ。だから、王母様のことを想い、心を込めた贈り物を準備するのよ」

離宮に戻った私は、王妃様から頂いた一覧表を改めて見る。

一覧表には、食べ物、衣類、宝石などの様々なものが記されていたが、贈り主の名前については書かれていない。

私は、一覧表に記載された贈り物の数を見て、毎年違う贈り物が王母様に贈られていることを知る。

贈り主が皆、王母様のことを想って、自分が選んだ結果、毎年違う贈り物になっているのだろう。

私は、クレイン殿下が何を贈られたのか気になったが、今は王母様への贈り物を何にするか考える事を優先することにした。

いざ、何を贈ろうかと考えると、なかなか決めることは出来なかった。

私は、贈り物の一覧表を見ながら、贈り物に何が相応しいか考え込んでいた。

「祝祭までは、まだ日がある。焦って決めることはない」

私は、クレイン殿下の声に驚き振り返る。

「すまない、驚かせたようだな。でも、今私が言った通り、ゆっくり考えればいい。前にも言った通り、マーレットが心を込めた贈り物ならば、おばあ様は喜んでくれるはずだ」

私は、離宮に帰ってからずっと一覧表とにらめっこをしていたらしい。

侍女が、食事の準備ができたことを告げに来る。

「さあ、気分転換に食事にしよう。満腹になれば、何か良い品が思い浮かぶかもしれないぞ」

クレイン殿下が、微笑みながら言う。

私は、食堂から漂って来る匂いに、「食べ物でも良いかな」と思い、再び贈り物について考え始める。 

「マーレット、腹ペコだ。まずは食事にしよう」

いたずらっ子のような笑顔を見せるクレイン殿下が、右手で私を食堂へと促すような素振りをする。

私は、贈り物が記された一覧表を片付けて、クレイン殿下といっしょに食堂へと向かった。
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