上 下
18 / 18
風変りな勇者召喚編

017 三馬鹿は金塊で切り抜けろ

しおりを挟む
 俺の問いかけの答えを考えていた歩は、閃いたといった様子で顔を上げた。

「ええとね、ラガーマンってのはどう?」

「いや、流石にラグビー……ってのは通用しねぇだろ。大男だから見た目的にはぴったりだけどさ」

 ラグビー選手を意味するラガーマン。そして動きの鈍い人を意味するラガーマン。
 意味的に言えばこれ以上ないほどぴったりだとは思うが……。
 そんな風に思っていると、じっと顔を向けてきていたレミュエラがその言葉を口ずさんだ。

「ラガーマン……、ラガーマン……。
 意味は分かりませんが、響きは悪くないですわね。
 ただ、そうすると私とリチャールソンが、地味になってしまうような気がするのですわ」

 ま、そうかもなぁ。リーダーはともかくレフトはひどい。せめてレフトマンとか……、はだせぇな。

「はぁ、もう何でもいいじゃん。リトルボーイとかラグジュアリークイーンとか……。自分たちで考えてくれよ」

 俺が溜息をつきながらそう言うと、レミュエラは何故かよく分からないが嬉しそうに俺の手を取ってくる。
 や、やめてくれよ、上から御胸が見えるんだよ!

「や、やはり、ヒョウスケは私が見込んだ男性でしたわ! ラグジュアリークイーン! 意味は分かりませんが、響きがとても素敵ですの!」

 ピョンピョンと飛び跳ねそうなほど嬉しそうなレミュエラに若干照れつつ、もっと適当な事を言えば良かったなと反省した。

「ラグジュアリーってのは豪華とか華麗とかって意味だよ」

 俺の言葉に、再度ずざざと後退りこけるレミュエラ。
 けれど、駆け寄ろうとした弟たちをなぜか「いいのですわ!」と言いながら手で制し、俺に向けて手を差し出してくる。
 ええと、立ち上がらせろという事だろうか……。
 なに? わざと倒れたの?
 そんな思いを感じながら小さく首を振り、助け起こしてやると仮面の下の顔を赤らめ、嬉しそうに笑い出した。

「オホホ。ありがとう、ヒョウスケ。さっきの言葉はプロポーズととってよろしくて……?」

「いや、よろしくねーよ! てか、もういいよ。まだつっこみたいとこあったけどさ! とりあえず、何の目的で俺達を尾けてきてたんだよ?」

 異世界と英語の関係はまじで意味わからんけど、こいつらの名前はおそらくRで始まっている。
 という事は、L統一は初めからおかしいということ。

 ま、それはもうどうでもいいとして、まじでこいつらに全て付き合っていたら夜が来てしまう。
 流石に目の前で魔法を使うわけにはいかないので時間を確認することは出来ないが、おそらく四時を回っているだろう。
 森の中を通る街道は木々が光を遮っているので、さらに暗さを増しているのも何となく嫌な感じだし。

「そうですの、シャイなとこもまた素敵ですわよ」

 言ってから、弟たちの元へと一度引き――

「あなたたち――いえ、ヒョウスケを追ってきたのは、金塊を所持しているのをリチャールソンが見たからですわ!」

 気に入られるのは嬉しいが、あまり勘違いされるのも困る。なんてったって俺は莉緒一筋だからな!
 つか、歩もいるんだから言い直さなくていいのに……。
 それに朝見られていたのは、やはり気のせいじゃなかったって訳か。

「それで? 俺たちをどうしようと思ってんだ? おそらく隠れながら追ってきたのはかなり長い距離だろ?」

 世界がご都合主義で構成されている訳じゃないというのなら、あのタイミングで現れたのはおかしい。
 おそらく俺達自身が気を取られていた会話が終わり、周囲に気を配ったところでこいつらの存在が発覚したということ。
 本来なら戦闘直後を狙うのが最も消耗していて安全のはず。
 それをしなかったということは、俺達と戦闘をして勝てる自信がないということだろう。
 でも、そうするなら俺達に作戦が露呈した時点で、戦闘を避けて逃走しているか……? いや、でもこいつらおバカだからな。

「ふふふ。よく分かりましたわね! ヒョウスケが寝静まってから荷物を探ろうと思ってたのですわ!
 でも、バレてしまっては仕方がありません! 私達トリプルLの所持する、百余人の血を吸った魔性装具があなた達に牙を剥くのです!」

 言いながら蠅叩きのようなもので、ぺちぺちと自分の肩を叩いてみせる。
 リチャールソンは、レイピアの鞘から柄にゴボウのようなものが刺さったものを抜き取って、正中線に構える。
 そして、レドモンドはというと、その様子を指を咥えてじっと見つめていた。

 煽り文句の練度も低すぎる気がするし、完全に面白戦隊オモレンジャーなんだが……、どう対応しよう。
 考えているうちに、レミュエラがリチャールソンの持つゴボウみたいなものを見て口を開いた。

「リ、リチャールソン。あ、あ、あなた……何を持っているんですの? それはどう見てもイセカイゴボウにしか見えませんのですけど」

「本当だぞぉ。おで、ずっと美味そうだなと思って見てたんだぞぉ」

「た、確かにこの手触りはいつものレイピアではないです! わ、私のレイピアは一体いずこへ?」

 ま、まじでゴボウなのかよ……、しかもイセカイゴボウて。異世界が異世界を認識してどうすんだよ。
 ここから見たら、俺達がいた世界こそが異世界だろうに。
 いや、でも待てよ……。
 イセカイゴボウが異世界牛蒡とは限らないか……? 伊勢介護棒かもしれん。意味わからんけど。

「レイピアは一昨日折れてしまったと言ってた様な気がするんですけれど?」

「そうだぞぉ。変なこと叫びながら振って、手からすっぽ抜けてたんだぞぉ。おでの斧に当たってポキンと折れて危なかったんだぞぉ」

「そ、そうでしたそうでした。それで、カッコ悪いと思ってイセカイゴボウを突き刺しておいたのでした」

 俺はあまりの意味不明さにツッコむのをやめた。諦めたのではない、止めたのだ。
 ツッコむにはちょっとボケの練度が低すぎる。いくら天然といえどもそれは同じ事。
 それにこれに付き合っていては日が暮れてしまう。
 そう思い、さっさとここを切り抜けたかった俺は、歩に向かって「今回だけな」と言いながら金塊を一つ作らせる。

「そういうことですの。では、リチャールソンは下がっておきなさい」

「は、はい、レミュエラ姉さん。けれど、ずっと思っていたのですが、レミュエラ姉さんの持っているのも虫叩きではないのですか?」

「虫叩きじゃ百余人の血なんて吸えないんだぞぉ」


――正にその通り!


 つかやっぱり、蠅叩きだったのかよ。
 歩に金塊作らせる必要なかったかな……、俺が石ころぶつけたらすぐ逃げてったかもしれん。
 レミュエラは若干不安そうな顔をしながらレドモンドの肩を叩いた。

「こ、ここはあなたにかかってるわ、レドモンド。や、やっつけちゃってちょうだい! でも、ヒョウスケに傷負わせたらダメですのよ」

 心配してくれているのかチラチラと俺の事を伺ってくるのを見ると、こちらの戦意も喪失してしまう。
 けれど、そういうわけにもいかない。レドモンドは見掛け倒しではなく、重そうな斧を片手で軽々と振っている。
 やりゃ何とか勝てると思うけど、ミスでもすれば、レミュエラの言葉なんか無視して俺の首は胴から離れるかもしれない。

「兵輔、金塊出来てるよ。使う?」

「ああ、使う使う。わりーな、重いのに持たせてて」

 言いながら受け取って天高く金塊を掲げて見せた。
 あの時より重く感じないのはレベルが上がったからか……?

「お前らがこれを受け取って引くというなら渡そう。引かないなら……痛い目を見てもらう!」

 艶めかしい黄金色の光を見て目がくらんだのか、三人の目線は金塊に釘付けだ。

「お、お。レミュエラねぇちゃぁん、ああ言ってるけど、どうすんだぁ?」

「ヒョウスケ、ほ、本当に頂いてもいいんですの……? 私、本気になってしまいますわよ?」

 そ、それはちょっと困るけど……。
 好かれて嬉しいのは嬉しいんだよな。

「ああ、別にレミュエラへのプレゼントってわけじゃねぇがな。俺達を見逃してくれたら渡すって話だ」

「そ……、いえ。そういうことにしておきますわ」

「じゃあ、俺が金塊をここにおいて3分待ってから拾い上げて収納庫に入れろ。俺達はその間に先に進むからな!」

 と言葉を交わしながら俺は木の幹に金塊をひっかけた。
 収納庫に入れさせるのは消えたことがばれないため。とりあえずここを切り抜ければもう二度と会うことはないだろう。
 そう思いつつ背中を見せたが、振り返るとレミュエラがジッと俺の事を見つめていて……何だか嫌な予感がしつつも三人組を切り抜けることに成功した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

お茶屋、ダンジョンシーカー愛好家

一気に読まさせてもらいました!
面白かったです♪
序盤のドバイで破産しろは笑いが込み上げてきましたw
これからも投稿頑張ってください!!

とりっぷましーん
2017.08.03 とりっぷましーん

浅草寺莉緒 「ごっめんなさい!! 作者がシステムがよく分かってなくて感想に気付いていなかったみたいなんです! 私が代わりに謝らせていただきますっ」

藤堂兵輔  「金を持ってんのを鼻にかけるやつは、麺の代わりにふかひれのラーメンでも食って美味いとかあほ面で宣っててくれればいいよな!」

浅草寺莉緒「ちょ、ちょっと口が悪いよ。とにかく、感想ありがとうございます。
現在、作者?は加筆修正作業と書き溜めを行っているようです。申し訳ございませんが更新は少々お待ちいただけるとありがたいです」

解除

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。