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第六章 『好きなんだ、きっと』

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「環菜先輩にとっては、吹奏楽部での文化祭は最後ですもんね。忘れられないステージにしたい」

「いつもの私達らしく、演奏できたらいいな」

 やがて、マシュマロ焼きを食べて一息ついている頃、部員達が次々と講義室にやって来た。

 ここで大きな音は出せず、マウスピースで軽く音出しをする。

 そして、いざ体育館に向かうと、今はお笑い研究会の二人がネタを披露しており、会場からは笑いが起こっている。

 舞台袖には、三曲目に披露する合唱のために、椎川君の姿があった。

「環菜、ファイト」

「椎川君、ありがとう」

 まもなくネタが終了すると、私達は譜面台や椅子を並べる。いよいよ本番だ、落ち着け、落ち着け。

 ドキドキはしているものの、いつもに比べると不思議と落ち着いており、準備が整うと、私は梓君と舞台の真ん中まで出て行く。

 知らない人達の沢山の目が、私達を見ているものの、深呼吸をして、いざ、声を出す。

「今日は文化祭に来て下さって、ありがとうございます。吹奏楽部部長の、雅環菜です。私達吹奏楽部は一年生三人、二年生……」

 途中手が震えそうになっていると、雰囲気を察してくれた梓君が、小声で大丈夫、と言ってくれる。

「今回演奏する曲は、キャンディード序曲、MINMIのサマータイム、そして最後は二年四組の合唱と一緒に、COSMOSを演奏します」

 そこまで言うと、ようやく梓君とバトンタッチ。

「同じく吹奏楽部部長の、嶌梓です。今日は沢山の方に来て頂き、大変嬉しいです。ありがとうございます」

 梓君は全く緊張しているようには見えず、スラスラ言葉を続ける。

「今日のために、毎日一生懸命練習してきました。精一杯演奏させて頂きますので、手拍子など、宜しくお願いします」

 二人一緒に礼をすると、小走りでマイクを返しに行き、いざ本番。

 指揮に合わせて、ティンパニーのボンッと、力強い演奏から入る。

 そして、フルートとクラの次々に変わりゆくメロディーに乗せ、私も間違わぬよう伴奏を演奏する。

 クラパートも、フルートの唯ちゃんも梓君も、間違いなくリズムに乗っている。今まで毎日練習をしてきたのだ、ここで間違うわけにはいかない。

 中間はゆったりとしたスローテンポの滑るような演奏を終えると、再び最初の小節に戻る。クラ、フルートのリズミカルな音に合わせて、ペットやボーンも音を重ねる。

 チューバ、ユーフォはどっしりとした低音を奏で、ラストは全員で音楽を作り上げる。

 一人では作り上げることのできなかった音楽を、私達は今この場所で、演奏をしている。

 何気なく集まった部員達も、これはきっと奇跡。

 やがてキャンディード序曲を無事に演奏した後、会場が拍手に包まれ、サマータイムに入る。

 ノリノリの曲に、序盤から手拍子がされ、私達も身体を揺らしながら演奏をする。

 舞台袖からは四組の生徒達も手拍子をしており、そこに椎川君もいるのだろう。






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