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第六章 『好きなんだ、きっと』
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しおりを挟む梓君と二人きりになる機会は今まで沢山あったが、こう、長い時間何もせずに、自由を過ごすことはなかった。
初めて感じる二人きりの空間に、私はとても居心地の良さを感じている。
やがて、それから暫く経つとあくびをした梓君は、ちょっと寝る、と言って窓辺を離れ、机に突っ伏した。
それが少し寂しかったものの、私は梓君が寝息を立て始めると、部屋を出た。
まだ吹奏楽部の出番には時間があり、ちょっと小腹がすいたのだ。
運動場を一人で歩くのには躊躇したものの、さっさと買って帰ろうと思い直す。
テント前では客引きをしている生徒の声が大きくて、人気のお店は人で賑わっている。
何を買おう……。梓君、何食べたいかな。自分より先に彼の顔が思い浮かび、甘い物を探す。
そして、パッと目についたマシュマロ焼きを二本買うと、私は再び校舎に入る。
竹串に、カラフルで大きなマシュマロが三つ刺してある。
以前、梓君はマシュマロ味にのアイスを食べていたから、好きだろうと思ったのだ。
しかし、再び講義室に入ったものの、梓君は寝ており、私はマシュマロ焼きを梓君の眠る近くに置く。
そしたら、甘い匂いが漂ったのだろう、薄く目を開けてしまった梓君に、私は慌ててしまった。
「ごめん、起こしちゃったね」
「良い匂いするな、と思って」
「さっき寝たばかりなのに……ごめん」
「もしかして、俺に買って来てくれたんですか?」
「……うん」
しかし、嬉しいと言ってくれた梓君は、鞄の中からお財布を取り出したが、もちろん受け取るわけにはいかない。
自分が好きだで買ってきたんだから、ということを伝えると、お礼を言われ、梓君は熱々のマシュマロ焼きを頬張った。
「あっつ……でも、これは熱いうちに食べた方が美味しいですよね」
「喜んでもらえて良かった」
「環菜先輩から買ってもらったって思うと、倍美味しいです」
梓君の正面に座ると、自分もマシュマロを口にする。
一人で運動場は緊張したが、行ってよかった。喜んでもらえることが、嬉しい。
梓君の魅力的な笑顔は、見ていて自分自身も心が喜ぶ。
「んー、めっちゃ美味しい。まだ全然食べれそう」
「もう一回買って来ようか?」
「いやいや、ここにいて下さい」
梓君は微笑むと、じっと私を見つめてくる。
「本番、演奏、頑張りましょうね」
「うん、成功するようにね」
「今まで練習してきたんだから、きっと大丈夫ですよね」
梓君の言葉は心強く、不思議と本当に大丈夫な気がしてくる。
舞台挨拶の時は、梓君と二人前に出ることになっており、一人じゃないと思うだけで、安心感が違った。
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