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第六章 『好きなんだ、きっと』
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しおりを挟む一日、二日、三日……と、練習を重ね、今週からは土曜も練習日に変わり、曲を仕上げていく。
そして翌週、八月も最終週に入り、周りのクラスも文化祭の準備に取り掛かり始めていた。
「二小節目、ボーンとペット、タンギングを意識して」
できない所は、何度も繰り返し、合わせていく。
「クラとフルートは、周りの音をちゃんと聞いて、合わせて」
顧問が指摘していく箇所の楽譜に、どんどん注意書きをしていく。毎日この調子で、楽譜はかなり書き込みがしてある。
COSMOSとサマータイムは良しとして、やっぱり引っ掛かるのはキャンディード序曲。
大変華やかで、まるで楽器が歌っているかのような、楽しい曲。ファンファーレのようなペットの音に続き、何拍子か分からないような、ハイテンポのクラやフルートの音が回る。
走るようなサックスに、打楽器やシンバルの音がタイミングを見て重なる。周りのリズムを崩さぬよう、私は伴奏を奏でる。
ラストスパート駆け抜けるような演奏を終えると、顧問がもう少し仕上げていこうね、と言って、一旦休憩に入った。
斜め前方には、いつもは余裕の表情の梓君が、楽譜を見つめたまま動かない。キャンディード序曲、難しいもんなぁ。
傍から見れば、上手く吹けているし、唯ちゃんも感心しているものの、本人的にはまだ完璧ではないらしい。
梓君は引き続き、COSMOSとサマータイムではペットも掛け持ちしていて、大変そう。
でも、できるかな、なんて口では言ってはいても、物凄く頑張っているのが目に見えて分かり、その姿は応援したくなる。
「じゃあ、そろそろ体育館に行って下さい」
少し休憩した後、私が立ち上がって皆に言うと、楽器や譜面台、楽譜を持って体育館へ向かう。
今日はCOSMOSを歌う二年四組と、初めての合同練習なのだ。
せかせかまず譜面台を運んでいると、既に四組の生徒達が体育館に集まっている。
急いで音楽室に戻った頃、慣れた手つきで、梓君が重いチューバを抱えてくれて、代わりに自分はフルートと楽譜を二冊持って行く。
部員以外の生徒達がいると思うと一気に緊張して、動きが硬くなる。それに、私部長だし、何か言わないといけないんじゃ……。
不安になっていると、それぞれの椅子に着いた部員達が、私に意見を求めている。
「先生、最初の入りだけ、合わせてもいいですか」
子細い声で顧問を呼ぶと、気付いたらしく指揮棒が振られ、音の入りをチェックする。
その間に、四組の生徒達が私達の前に立つものの、キョロキョロ後ろを振り返る。
毎日教室で一緒に過ごす生徒達が、興味ありげにこちらを見ていて、その中に椎川君がいてドキドキする。知らない人の方が緊張しないかもしれない。
そして、入りを確認していると、顧問が私に近寄ってきた。
「雅さん、皆の前で一言何か言ってもらえる?」
「えっ」
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