上 下
50 / 71
第六章 『好きなんだ、きっと』

4

しおりを挟む






~雅環菜~

 猛暑のお盆休みが過ぎると、文化祭もじわじわ近付いてきて、猛練習に励む。

 COSMOS、キャンディード序曲、サマータイム。

 三つの楽譜と毎日睨めっこして、完璧に吹けるように地道に頑張る。

「環菜先輩、合わせましょう」

 久しぶりに八重樫君が部活を休んだその日、一人でチューバを吹いている所にやってきたのは、梓君。

「キャンディード序曲以外はいけます」

「じゃあ、サマータイムにしようか」

 メトロノームをつけて、いち、に、さん、し。

 MINIMIの曲を選曲したのは唯ちゃんだが、聞いていて元気の出るようなパワーのある歌で、素敵。

 ラミーラ、ラミーラ。

 梓君と目を合わせながらリズムに乗る。

 私は、梓君の奏でる、軽やかで、爽やかな風のような演奏が好きだった。梓君はいつも、とにかく楽しそうにフルートを吹くんだ。

 ラ、シ、ドーレド……。ドーレド……。

 自然と体が揺れる梓君を見ると、目が合って、細められる。

 何だろう、少し前から、私はおかしいのだ。心も体も、変なのだ。

 あんなに避けていた梓君にドキドキすることが多くなり、自分で自分に驚いている。

 花火大会の日に綺麗だ、と梓君が言ってくれた時、心が苦しかった。

 いつもの短なハグが名残惜しくて、自ら彼の背中に手を合わせてしまったこともある。

 粉の付いた口をハンカチで拭ってしまったり……完全に、意識してしまっているではないか。

 こんな風に、自分から動くことは初めてで、正直、頭がついていかない。

 シラシラ、シドシラ。

 でも、早まる鼓動にはついていけなくても、私は梓君との演奏を楽しんでいる。最終小節で音を短く刻むと、マウスピースから口を話してふぅ、と息をつく。

「多分、本番は今よりもっと早いペースだよね」

「頑張らないとなぁ。でも、俺この曲好きです」

「私も好き」

「じゃあ、俺のことは好き?」

 ──ん……?

 今、サラッと違うことを聞かれた気がする。じっと梓君を見ると、笑って首を振られた。

 梓君はずっと優しい。でも、梓君と二人で食堂で雨宿りをしていた後、私は椎川君に初めてきついことを言われてしまったのだ。

『あいつに近付かないで』

 いつもは梓君とのこと、特に気に留めている様子のなかった、椎川君からの言葉。

 梓君に対する気持ちが、もっともっと大きくなってしまったら、どうしよう。大事にしてくれている椎川君に、別れは言い出せない。

 でも、この曖昧な気持ちのまま付き合うのも、きっとよくない。

「あー、キャンディード序曲も練習しなきゃ」

「唯ちゃんも、去年手こずってたよ」

「でも、千歳先輩は去年一人で吹いてたんですよね? ホント凄いよなぁ」

 いつも本番ガチガチになってしまう唯ちゃんだが、いざ本番が来ると流麗に演奏をする。

「梓君なら、きっとできるよ」

「プレッシャー」

「あっ、ごめん……」

「ううん、良い意味に捉えときます」

 やがて沈黙が訪れると、梓君からベランダに出よう、と言われて二人で運動場を眺める。

「うちの中学って、文化祭なかったじゃないですか」

「うん、なかったね」

「だから、文化祭ホント楽しみなんです」

「結構、盛り上がるんだよ。後夜祭もあるし」

 九月の上旬にあるから、出し物をするクラスは夏休み中から練習をしなくちゃいけないのはあれだが、文化祭は盛り上がる。

 文化祭、私は去年みたいに、椎川君と一緒に回るのかな。何だろう、ちょっと複雑な気持ち……。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...