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第六章 『好きなんだ、きっと』

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 しかし、思わぬ申し出があったのは、それから数日後だった。

「……という感じで、是非演奏をお願いしたいらしいのだけれど、皆どうかな?」

「是非、宜しくお願いしたい」

 部活終了間近、やって来たのは顧問と……確か、二年を受け持っている数学教師。

 九月にある文化祭で、数学教師のクラスはいつも合唱をしているらしく、その伴奏を今回吹奏楽部にお願いしたい、とのことらしい。

「賛成の人、手を挙げて」

 ここで挙手しない生徒は凄いと思う。俺も手を上げると、全一致で、あと一曲追加で演奏することが決まった。

「曲はアクアマリンのミマスさんが作曲した、COSMOSなんだ」

「光の声が天高くきこえる……」

 顧問が軽く歌うと、わぁ……と辺りが良い意味でざわつく。

 COSMOSは知っており、俺は中学の頃の合唱コンクールで歌った。

「楽譜は学校にあるので、コピーして週明けに配ります」

 何かを始まる前って、ワクワクする。COSMOSは知っている曲だし、きっと時間かからずに吹けるはず。

「皆さん、文化祭に向けて頑張りましょう」

 部長の環菜先輩が言うと、皆大きく頷いた。

 楽器を片付けていると、八重樫と環菜先輩が話をしているのが聞こえてきて、あの数学教師の担当のクラスは、環菜先輩の二年四組らしい。

「えー、もう合唱って、強制決定なんですか」

「うん、クラスではまだ何の話もあってなくて、曲も決まるなんて」

「せっかくの文化祭なのに、クラスと部活が一緒になるって、ちょっと残念ですね」

 俺が口を挟むと、環菜先輩はコクコク頷く。

「でもまぁ、人前で歌うのは苦手だから、演奏の方にいて良かった」

 俺的には、緊張しながら歌う環菜先輩を、遠くから見たい気持ちも若干あったが……。






 そして、翌週始めにCOSMOSの楽譜を貰うと、さっそく譜読みに入った。

 やはり、知っている曲は随分頭に入りやすい。中三の合唱コンクールでCOSMOS歌っていた時、俺はぼんやりと遠い距離にいる環菜先輩を想っていたことを、思い出す。

 あれからもうすぐ二年、状況はいろんな意味で変化した。

 パート練習の休憩中、音楽室に戻ると、もう環菜先輩がCOSMOSを吹いていた。

 さすが、早いな。それに、キャンディード序曲にも触れている。

 先程、COSMOSと一緒に、キャンディード序曲の楽譜も貰ったのだが、こっちはちんぷんかんぷん。

「もう吹いてるんですね」

「梓君、休憩入ったの?」

「はい。だから、環菜先輩と八重樫、何してるのかなーと思ってでした」

「ホントは雅先輩に会いたいだけだろ」

 八重樫の言葉はスルーして、環菜先輩の楽譜を一緒に覗き込む。

 フルートやペットとは違う、重く低い音の音符が並ぶ楽譜。

「梓君、キャンディード序曲、大丈夫そう?」

「まだサラッと楽譜見ただけで、触ってません」

 でも、本番失敗は許されないし、今からヒヤヒヤだ。

「八重樫君、私達も休憩に入ろうか」

 環菜先輩は言うと立ち上がるから、どこへ行くのか尋ねると、今から売店に行くそう。

「あ、じゃあ俺も行きます」

 あぁ、嬉しいチャンスだなぁ、と思いながら二人で音楽室を出る。





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