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第五章 『ゆらり揺れるタチアオイ』

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「梓君の部屋って、どんな感じなんだろう」

「来てみます?」

「いや、それは」

「ですよねー」

 中学の頃に比べたら、梓君お喋りになったよなぁ。もっとクールなイメージなのに、日に日に言葉数が多くなっている。

 結局、一つクッションを購入すると、そのまま他のお店に入ろうと歩き出した。

「環菜先輩は、見たい所ないんですか?」

「私は、そうだなぁ……楽器店、とか?」

「いいね、行ってみましょ」

 再びエスカレーターで二階に上がって、一番奥にある楽器店へ。 

 久々に入り、ピカピカの新品の楽器を前に、私は目を輝かせる。

「いいなぁ、my楽器」

 チューバは置いていないが、クラやフルート、ペットにサックス……。

 私は学校で貸し出しされている、古いチューバを吹いている。

 一方で、自分の楽器を持って来ている梓君が、とても羨ましかった。

 新品のチューバを買うのには、最低でも70万くらいからを考えた方がいい、とネットで見て、とんでもない金額だ。

「そうだ、私、フレキシブルクリーナー買いたいと思ってたんだ」

「俺も、クリーニングペーパー欲しい」

 音楽に囲まれている楽器店は、居心地が良く、いつまででもいれそう。

「楽器、楽しいですよね」

「うん、私そう上手くないけれど、吹くの好き」


「何言ってるんですか。俺、環菜先輩の楽譜に正確な演奏、いいなと思ってます」

「上手い梓君に褒められると、何か照れ臭いな」

 ハハ、と微苦笑すると、梓君の手が伸びてきて、頬を突かれる。

「もっと自分に自信持って下さい」

 真剣な瞳にドキッとして、どう反応した方がいいのか……。

「環菜先輩は、今でも十分魅力的ですよ」

「そう、かな」

「絶対そうって、俺は思います」

「……ありがと」

 笑うと、ポンポン頭を撫でられ、梓君はレジへと向かう。

 何だろう、何でこんなにドキドキするのだろう。不安定に揺られている自分が、嫌になる……。梓君に褒めてもらえると、何だかちょっと、嬉しかった。

 でもこの事実を、受け入れたくない自分がいる。

 それぞれクリーナーとペーパーを買って、アイスクリームショップに戻ると、既に美知佳達は私達を待っていた。

「環菜、どこいたの」

「楽器店とか……」

「もう話つきて、二人を待ってたんだよー。遅い」

「ごめんごめん」

 お店の入り口で梓君達と別れ、私は再び美知佳と歩き出す。

「嶌とのデート、どうだった?」

「デートじゃないよ」

「椎川に言いつけようかな」

「ちょっ、美知佳」

「動揺する所、怪しいなぁ」

 美知佳は他人ごとだから面白がっていて、鼻歌を歌いながら軽やかに先を歩く。

 ──もう……。





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