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第三章 『胸を駆け巡る恵風』
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しおりを挟むまもなく午前の競技が全て終わると、俺は八重樫と一緒に、スタンドの後ろでお弁当を食べる。
「予報、外れて良かったなぁ」
「ホント、今日は曇雨って言ってたもんね」
「俺、晴れ男だからかな」
アハハ、と笑う八重樫に、俺も笑い、ペラペラ世間話をしているうちにチャイムが鳴り、いよいよ応援合戦。
この日のために、と二週間かなり練習に打ち込んできて、応援団達の緊張と楽しさがヒシヒシと伝わってくる。
笛の根を合図に、まずは白いパネルを上げる。
No.1、V2、赤、炎を表すパネルを上げ、本部テントにアピールする。
ドンッ、ドンッ、ドラムの気合いの入った音が全身に響く。
しかし、皆が集中している最中だった。
「あっ、間違えたっ!」
少し大きな声が聞こえて、チラリと上を見上げると、大堂先輩が慌ててパネルの色を変える。
「うわーっ、環菜、どうしよう。間違えちゃったよ」
聞こえてくる声に、辺りから文句が飛び交う。
大堂先輩、何やってるんだよ……。
結果、その後は何の問題もなく、応援は終了したのだが、早情報が回ったらしく、応援団達が大堂先輩を睨みつけた。
だが、本人の大堂先輩はあっけらかんとしており、それはポジティブでいいのか、悪いのか……。
「美知佳、応援団の人達、こっち見てる。怖いよ」
「いいのいいの、失敗したのも何かの運命だし」
「いや、運命って……」
「ほら、次の競技始まったよ」
スウェーデンリレーに、大玉運び。
大縄跳びに、10人11脚走。
──そしてやってきた、学年別対抗リレー。
俺は応援スタンドから再び門に整列すると、場内に駆け足で入場する。
各チーム五人で、ブロック毎に二チームずつ。これは体育時の100メートル走の、上の早い順から選ばれた生徒達である。
俺は二番手、緊張の面持ちでピストルが鳴ると、一番手の三人が、勢いよく走り出した。
野球部だと言っていた、坊主頭の一年の生徒が、二年と肩を並べていい勝負をしている。
しかし、後半追い上げてきた三年に二人は抜かれ、一年組は三番。
次の俺は、ラインに並ぶ。
そして、同じく隣に並ぶのは椎川先輩。
「頑張ろうな」
椎川先輩は言いながらも、瞳の奥は燃えており、先にバトンを受け取った瞬間、彼は勢いよく走り出す。
遅れてバトンを受け取った俺も、全速力で駆け出す。
元々は運動が好きで、バスケ部にも入り、足にはちょっと自信があった。
ドンドン急かすような太鼓の音と笛の根に、生徒達の歓声。
俺は近くなってきた椎川先輩の背中を捉えると、後半で一気に加速する。
ここでは負けられない、と強く思っていた。勝ったから、と環菜先輩とどうにかなるわけではないが、負けては話にならないような気がしている。
体の前部に力を込めて、前へ、前へ。
ようやく隣に並ぶと、ラストのコーナーにかけて、とにかく足を前に出し、僅かな差だが追い越して、そのまま三番手にバトンを渡した。
はぁ、はぁ、と息を乱しながら、その場に座り込む。久々に走ったから、息が上がってとてもきつい。
「嶌、お前足早いな」
同じくきつそうな椎川先輩だが、立ち上がると、笑顔向けてきた。
「いい勝負だったな」
「ホントですね」
「まぁ、環菜は関係ないけどなー」
やっぱりそこは、ちゃんと言うんだ。
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