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第三章 『胸を駆け巡る恵風』
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しおりを挟む私の名前が呼ばれ前に出て、次に呼ばれた男子生徒の名前に、目を見開いた。
「嶌梓」
梓君が同じブロックなのは知っていたが、まさか彼の名前が呼ばれるとは思わず、俯く。
また、自分のことを見てくれ、と言われた。
もう一度、友達から始めたい、と言われた。
まるでその気がある、というような言い方で、その場は上手く濁して帰ったが、実際心臓はバクバクだった。
「宜しくお願いします」
「このペアって、どうやって決まったんだろう」
二人で運動場の決められたポイントに座りながら、次々に呼ばれていくペアを見る。
「どうなんでしょうね。でも、俺は、環菜先輩と一緒で嬉しいですよ」
軽く言われるだけでも、変にドキドキしてしまい、平常心を装う。
梓君のことが気になっていた、中学三年の自分だったら、とても嬉しかったんだろうなぁ。
やがて、全ペアが発表されると、振付が説明される。
二人手を繋いで、いち、に、さん。
梓君の手は、椎川君に比べるともう少し大きくて、角ばっている。
目が合うと、軽く笑い返されるものの、私の表情は強張る。
部活の時は、パート練習の合間休みに、八重樫君と三人で話す程度だったのに、こう二人で一緒にいる機会が多くなると……。
背中合わせで、いち、に、さん。そのままクルリと回って、いち、に、さん。可愛い振付に、男子生徒達は照れている。
「一緒のペアになったのは、何かの運命かもしれませんね」
「そうかな」
「俺は、そう思いたいな、と思ってます」
そんな中、ダンスの練習が終わると、椎川君がパタパタ走って近寄ってきた。
「環菜のペアって、嶌だったんだ」
「椎川君、お疲れ様」
「お疲れ、何か妬けるなぁ」
先を歩く梓君の背中を見て、椎川君は私の手を握る。さっきまで繋いでいた梓君が、すぐに上書きされる。
「今日、また一緒に帰らない?」
「うん、分かった」
誘われるのは椎川君からばかりで、自分から誘ったことは一度もない。
いつも受け身な所、一歩踏み出さなきゃとは思いつつ、椎川君が来てくれるから、甘えっぱなしだ。
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