上 下
13 / 71
第二章 『思い出には、目を伏せて』

5

しおりを挟む






~嶌梓~

「はーい、じゃあバス下りたら点呼するので、一旦整列して」

 バスからぞろぞろ生徒が出てきて、広場に集まる。

 例年一年の行事である、二泊三日の春の宿泊訓練。山の麓にある宿泊施設で様々なことを体験して学ぶこの行事に、俺達一年は強制参加をしていた。

 点呼を終える頃お昼時になっており、四人部屋に荷物を置くと、広い食堂に向かう。

「あぁ、腹減った。さっきからぐーぐー鳴ってる」

 同じクラスの八重樫のお腹の音に、クラスメイト達がクスクス笑っている。

 八重樫とはいつも一緒に行動しており、入学から三週間、毎日一緒にいるから徐々に仲良くなっていた。

「お、やった。さっそく肉じゃん」

 嬉しそうな八重樫にプッと笑いながら、おかずをおぼんに乗せていく。

 訓練は金曜から日曜まで、代休は月曜日一日。実質学校を離れるのは二日だけなのだが、部活や、環菜先輩がとても遠く感じるのは、距離が離れたせい。

 食事を終えると、すぐに運動場で行進の練習が始まり、体育教師が声を荒げる。

 中学の頃に比べると、行進や掛け声が一段と厳しくなり、ハキハキ行動しなければならない。

 でも、実際本気やっている生徒は少数で、皆、きっと今だけだと割り切っているのだろう。

「嶌君、お疲れ様」

 一時間の練習を終えて館内に戻ろうとしている時、隣に並んできたのは、長谷部ゆかり《はせべ ゆかり》。

 長谷部は、八重樫と三人で吹奏楽部に入部した内の、一人である。

 ホルン担当の長谷部もまた同じクラスで、よく言葉を交わす。

「長谷部もお疲れ、疲れたね」

「ねー、でも私、夜のレクリエーションは楽しみなんだぁ」

「確か、何かあったね。それって、何すんの?」

「交流を深めるために、ゲームとかするって聞いた」

「へー」

 正直、早く帰りたいな、と思っているから、訓練中に特に楽しみはなかった。

 ──そう思って、夕飯を食べ終えて、レクリエーションのために体育館へ向かっている時だった。

「なぁ、梓、ごめん」

 突然謝ってきた八重樫に首を傾げると、八重樫は本当に申し訳なさそうに、言ってきたのだ。

「雅先輩にさ……梓が前、雅先輩のこと好きだったってこと、言ってしまった」

「え」

「マジ、ごめん。つい、ポロっと……」

 顔の前で手を合わせる八重樫に、俺はふぅ、と息をつく。

「別にいいよ。隠そうとは思ってなかったから」

「マジ」

 今どう思っている、というのは置いといて、過去のことはあまり気にしていない。

 だが、驚くことに、環菜先輩はまだ椎川先輩と付き合っていた。

 別れた噂を鵜呑みにして、すっかりフリーだと思っていたのは、計算違いだった。

 でも、諦めきれないな……。環菜先輩が中学を卒業して一年、モヤモヤしたものを抱えたまま翌年、高校で再会。

 その瞬間、あぁ、俺は環菜先輩のことがやっぱり気になっているんだな、と自覚はした。

 でも、気になる、から好きへと気持ちが変化した時、辛い思いをするのは目に見えて分かっている。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...