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第二章 『思い出には、目を伏せて』
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しおりを挟む~嶌梓~
「はーい、じゃあバス下りたら点呼するので、一旦整列して」
バスからぞろぞろ生徒が出てきて、広場に集まる。
例年一年の行事である、二泊三日の春の宿泊訓練。山の麓にある宿泊施設で様々なことを体験して学ぶこの行事に、俺達一年は強制参加をしていた。
点呼を終える頃お昼時になっており、四人部屋に荷物を置くと、広い食堂に向かう。
「あぁ、腹減った。さっきからぐーぐー鳴ってる」
同じクラスの八重樫のお腹の音に、クラスメイト達がクスクス笑っている。
八重樫とはいつも一緒に行動しており、入学から三週間、毎日一緒にいるから徐々に仲良くなっていた。
「お、やった。さっそく肉じゃん」
嬉しそうな八重樫にプッと笑いながら、おかずをおぼんに乗せていく。
訓練は金曜から日曜まで、代休は月曜日一日。実質学校を離れるのは二日だけなのだが、部活や、環菜先輩がとても遠く感じるのは、距離が離れたせい。
食事を終えると、すぐに運動場で行進の練習が始まり、体育教師が声を荒げる。
中学の頃に比べると、行進や掛け声が一段と厳しくなり、ハキハキ行動しなければならない。
でも、実際本気やっている生徒は少数で、皆、きっと今だけだと割り切っているのだろう。
「嶌君、お疲れ様」
一時間の練習を終えて館内に戻ろうとしている時、隣に並んできたのは、長谷部ゆかり《はせべ ゆかり》。
長谷部は、八重樫と三人で吹奏楽部に入部した内の、一人である。
ホルン担当の長谷部もまた同じクラスで、よく言葉を交わす。
「長谷部もお疲れ、疲れたね」
「ねー、でも私、夜のレクリエーションは楽しみなんだぁ」
「確か、何かあったね。それって、何すんの?」
「交流を深めるために、ゲームとかするって聞いた」
「へー」
正直、早く帰りたいな、と思っているから、訓練中に特に楽しみはなかった。
──そう思って、夕飯を食べ終えて、レクリエーションのために体育館へ向かっている時だった。
「なぁ、梓、ごめん」
突然謝ってきた八重樫に首を傾げると、八重樫は本当に申し訳なさそうに、言ってきたのだ。
「雅先輩にさ……梓が前、雅先輩のこと好きだったってこと、言ってしまった」
「え」
「マジ、ごめん。つい、ポロっと……」
顔の前で手を合わせる八重樫に、俺はふぅ、と息をつく。
「別にいいよ。隠そうとは思ってなかったから」
「マジ」
今どう思っている、というのは置いといて、過去のことはあまり気にしていない。
だが、驚くことに、環菜先輩はまだ椎川先輩と付き合っていた。
別れた噂を鵜呑みにして、すっかりフリーだと思っていたのは、計算違いだった。
でも、諦めきれないな……。環菜先輩が中学を卒業して一年、モヤモヤしたものを抱えたまま翌年、高校で再会。
その瞬間、あぁ、俺は環菜先輩のことがやっぱり気になっているんだな、と自覚はした。
でも、気になる、から好きへと気持ちが変化した時、辛い思いをするのは目に見えて分かっている。
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