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第八章 『祭りの夜ら』

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~奈古千隼~

 告白を先越されてしまったことにはとても驚いたが、こんな時に限ってカッコ付けて飛び上がって喜ぶことはできずに、感情を押さえながら二人で花火を見た。

 でも、内心じゃあ本当に、鳰さんが思っている以上に嬉しくて、何度も彼女の横顔を盗み見てドキドキしていた。

 “恋人”と呼べる関係になった俺達は、帰りも満員のバスに揺られて、最寄りのバス停まで帰って来た。

 夏でももうとっくに日は暮れており、ギュッと手を繋いで二人の住むアパートへ帰る。

「下駄、ホントに痛くないですか?」

 今日何度か聞いた質問をもう一度すると、鳰さんは笑顔で頷く。

「な……奈古君の、彼女……」

「はい、俺は鳰さんの彼氏ですね」

「こんな……こんなの、初めて」

 街灯の下に来ると、鳰さんの頬はピンク色になっており、可愛いと思わずにはいられない。

 お互い今まで交際経験がない分、分からないことも多いが、二人で一からのスタートを切れることはある意味嬉しい。

 今日浴衣の姿の鳰さんは益々美人で、良いものを見れたな。

 心はポカポカあたたかな気持ちであり、ゆっくり歩いてアパートの前まで帰ってくると、鳰さんと向かい合う。

「鳰さん、今日は本当にありがとうございました」

「い、いえ、こちらこそ、ありがとうございました。……楽しかった、です」

「俺もです。これから、宜しくお願いしますね」

 こちらが笑うと鳰さんも微笑み、俺はこの近くに誰かがいないか辺りを見渡した後、ゆっくり腰を屈める。

 鳰さんは何を察したのかは分からなかったものの、拒絶されることなく、俺達の唇は重なる。

 角度とか、力とか、時間とか、何も分からないまま暫くキスをして離れると、俺は照れ隠しにハハッと笑ってしまった。

「すみません、こういうの、分からないですね」

「あっ……ありがと……ございます」

「ん、何が?」

「キ、キス……して、くれて」

「そこ、お礼言う所じゃないと思いますけど」

 ピンクを通り越して赤くなった顔で、鳰さんもクスリと笑う。

 明日の日曜はバイトだが、午後からのシフトであり、このまま鳰さんと別れるのも名残惜しい。

 しかし、付き合った直後に泊まっていけ、と言う程スマートなのか、ガツガツしているのか、どちらでもない自分は、今日はそれぞれの部屋に帰ることを選択した。

「まぁ、そのうち、俺の部屋にも遊びに来て下さいよ。一緒にご飯食べましょう」

「あ……ありがと、う、ございます。是非……わ、私の部屋にも」

「楽しみにしてます」

 何でも急げばいいってものではなく、せっかく縁あって付き合うことになったのだから、この関係を大事にしていけたらな。






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