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第八章 『祭りの夜ら』
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しおりを挟む途中停車するバス停バス停で、追加で乗り込んで来る人達に揉まれながらも、ようやく解放されたのは、バスに乗って三十分経った頃だった。
バスから降りると、目の前には電灯の灯る屋台が奥の方までズラリと並んでおり、たくさんの人が会場へ来ていた。
場は賑わっていて、こんな光景を見たのは……遠い記憶を辿ろうとした所で、ふと右手にぬくもりを感じ、手元を見ると私の手はしっかりと繋がれていた。
「人多いですね。鳰さん、せっかくなので何か食べましょうよ」
「そ、そうですね。な、に、が……いい、ですか?」
楽しみたいのに、やはり反して声は出づらく、私のか細く聞き取りずらい声は辺りに掻き消されそうだが、奈古君は穏やかな瞳で私を見る。
「……あ、わ、私、かき氷、た、食べたいです」
「かき氷……あ、あそこにお店あるから、並びましょうか」
アジサイ祭りとは桁が違う人の多さに臆して、私は無性に喉が渇いていた。多いとは想像していたが、これは予想以上だった。
でも、奈古君と楽しみたいから、自分で花火大会へ行きたいと言ったんだ。
沢山楽しんで、思い出に残るような時間に、したいと思って……。
店の前に連なる人の列の最後尾に並んだ後、私達はイチゴ味とメロン味のかき氷、あとは甘党の奈古君が食べたいと言った、袋に入った大きな綿菓子を買って屋台通りを離れた。
当たり前のように店主に声をかけるのは奈古君で、年上だから気後れしそうだが、きちんと声が出る時は、私がちゃんと……。
「はぐれないよう、気を付けて下さいね」
右手にかき氷、左手に子供向けのキャラクターが描かれている綿菓子の袋を持った奈古君は、今は私と手を繋いでおらず、こちらを気にしながら人混みを歩く。
砂浜と堤防には既に場所取りをしている人も多く、自分達も良いポジションがないかと歩きながら見ていくが、もうこの時点で私の胸はある意味いっぱいだった。
人が多いための緊張と、いつも以上に声が出ないことへの苦痛・悔しさ、そしてこれから打ち上がる花火を見ることに対する、期待感。
「この辺りでいいですかね」
会場の真ん中からは少し離れたが、堤防沿いに空いているスペースを見つけ、そこで立ち止まる。
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