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第七章 『小暑の夕に』
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しおりを挟む「手は、繋いだ」
「うわ、マジッ? ズルッ」
「今度ゆっくり会えた時に、気持ちを伝えられたらと思ってる」
素早く白黒はっきりつけたいわけではないが、この“好き”という気持ちを、相手に伝えたい心情はあった。
「みやちゃん、今日飲み会なんだっけ。もう帰ってきてないかな?」
「さぁ、十時近くなってるし、もしかしたら帰ってきてる可能性もあるね」
「んじゃ、会いに行こうか」
何を思ったのか、桃園はすごく楽し気に笑っており、立ち上がると片付けをほっぽって、玄関でスリッパをつっかけ扉を開ける。
「おいちょっ、何するつもりで……」
「あれっ、みやちゃんじゃん」
桃園が開けた扉の先には、今まさに帰って来たらしい鳰さんが、アパートの敷地に歩いて入って来た。
「みやちゃーん、こんばんは」
「も、桃園君?」
「はい、奈古の部屋にお邪魔してました」
近寄って来た鳰さんに、桃園は嬉しそうにテンションが上がっており、いつもより顔全体が赤い鳰さんも、小さく笑う。
「鳰さん、今日お酒飲んだんですか?」
「あ……うん、す、少しだけ飲みました」
「みやちゃん大人だもんね。こういう時に歳の差を感じちゃうなぁ」
──桃園の言った通りだった。
普段この歳の差が気にならなくても、何気ない瞬間に、社会人と学生、六年の時間の差を感じる一瞬が露わになる。
鳰さんはここ最近、たまの金曜日は部署の飲み会に参加することもあり、俺の前でも笑ってくれるように、職場の仲間とも打ち解け始めているのかもしれない。
これはとても良いことなのだが、ただどうしても変えることのできない“歳の差”だけは、たまらなくもどかしかった。
「も、桃園君は、家に帰る所だったんですか?」
「いや? みやちゃん帰ってきたかなって思って外出たら、ちょうど帰って来た……っていう」
「……何かありました?」
「奈古が、みやちゃんに会いたいってしつこくて」
「は、言ってないし」
桃園はニヤニヤしながら言うと、まだギリギリ玄関の中にいた俺の腕をグイッと引っ張って外に出させる。
「んじゃあ、俺はそろそろ帰ろうかな。あとは二人でごゆっくり」
桃園は小走りで俺の部屋に戻ると、すぐに携帯とバッグを握って再び外に出てきた。
「奈古、後片付け宜しく。みやちゃんも、また会いましょうね」
今まであんなにグータラしていたのに、桃園はシャキシャキ歩きながら手を振って去って行った。
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