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第七章 『小暑の夕に』

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 本日は珍しく、授業終わりに桃園が俺の住むアパートに来ていた。

 金曜日の夜、暑いのに鍋が食べたいと言った桃園と、スーパーで買い出しをして、男二人部屋で鍋を囲んだ。

 鳰さんは部署の飲み会に参加しており、また土日は自分がフルでバイトに入っており、今週もゆっくり時間を設けて会うことは厳しそうだった。

 午後九時半を過ぎ、今日は昼間の授業からずっと桃園といるし、そろそろ帰れば……と思っていても、桃園は俺のベッドに寝転んで、悠々とマンガ本を読んでいる。

「遅いと、家族心配するんじゃない?」

「男だし何も思われてないって。俺、可愛くて襲われるように見える?」

「見える」

「えっ」

「ウソ」

 俺はテーブルに置きっぱなしになっていた空の鍋をキッチンに運び、片付けを始める。

「なー、奈古」

「ん?」

「泣いてた麻友ちゃん、可愛かった」

「あぁ、一昨日のことか」

 あの後、桃園と遅れて中に入って来た風上さんは、もう泣いてはいなかった。桃園ことだ、きっと親身になって話を聞いたのだろう。

「あれで簡単に好きになったわけじゃないけど、可愛かったなって」

「そっか、あの時はありがとな」

「奈古は? というか、みやちゃんも奈古のこと好きなわけ? そういうのって、お互い雰囲気で分かるじゃん」

「……どうなんだろ」

「手応えなし?」

 嫌がる素振りを見せず手を繋いだし、最初の頃に比べると、笑顔を見せてくれるようにはなったが……。

「鳰さんのことをさ、好きな人が、もう一人いて」

「え、何その情報。誰だよ」

「桃園は会ったことないと思う。鳰さんの幼馴染」

「初耳、みやちゃん、その人のことが好きなわけ?」

「分からない」

 鳰さんが守屋さんのことを慕っているのは分かっているし、二人の付き合いの長さに比べたら、俺なんてたったの数ヶ月。

 差は目に見えて大きいし、守屋さんの方がずっと鳰さんのことを知っているが、本当の所、鳰さんはどう思ってるんだろ……。






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