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第七章 『小暑の夕に』
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しおりを挟む大体、何のために鳰さんに会いに行ったんだろ。
「何で私が鳰さんと話したかって、思ってる? 私と奈古君の邪魔しないでって言いに行った」
「邪魔って……さ、それは」
「自分勝手な考えだって分かってたけれど、奈古君のこと他の人に取られたくなかった」
風上さんの声は低いままで、少しだけ、震えていた。
「やっぱり私じゃ、無理かな?」
「……うん」
「奈古君の好みの女性になれる自信、あるよ? 鳰さんみたいに地味がいいなら、髪も暗く染めるし、好きなネイルも辞めれる」
「ごめん」
「無理?」
「ごめん」
風上さんの目を見て落ち着いて言うと、彼女の目じりにじんわり涙が滲み始めて、軽く慌てる。
泣かせるつもりじゃなかったが、だからと言ってここで変に優しい言葉をかけるのも、思わせぶりな気がして。
「奈古に麻友ちゃん、外で何してんの……って、麻友ちゃん泣いてるの!?」
タイミングが良いの悪いのか、店内から出てきた桃園が、泣いている風上さんに驚いている。
そしてベンチから腰を上げた風上さんは、泣きながら桃園の胸を借りる。
「えっ麻友ちゃん、マジでどうかした? おい奈古、何麻友ちゃん泣かしてるんだよ」
「違うの桃園君、奈古君は悪くない……」
「は、でも、泣いてるじゃん。大丈夫?」
「う、うん、大丈夫……告白、断られただけ」
桃園の胸で泣く風上さんを、桃園は若干顔を赤くしながら彼女の背中に手を回す。
「もー、奈古ひでー。麻友ちゃん大丈夫? ……って、俺、何気に照れてるんだけど……」
「落ち着いたら戻るから、奈古君は先に戻ってて。……私、桃園君に話聞いてほしい」
「いいよいいよ、何でも聞くからさ。おい奈古、お前はさっさと中入ってろ」
「……じゃあ、風上さんのこと宜しく」
口は悪げに言うが、桃園は風上さんを抱きしめながら、俺に問題ないと親指を立てた。
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