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第五章 『キスが落ちる』
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しおりを挟む「え、うわ、マジか」
俺も鳰さんも豪雨に襲われ、その場で自分の傘だけでもどうにか元に戻らないかとしてみたがこちらも完全に壊れていた。
大通りでないここの道には避難できるお店もなく、俺は鳰さんの腰に腕を回すと走り始めた。
「急ぎましょう」
鳰さんはコクコクと頷くだけで、俺達は荒れる天気の中二人足を進める。
もう、既にずぶ濡れだ。
でもこんな時に限って何だかこの状況がおかしくなってしまって、ぷっと息が漏れてしまった。
そしてチラチラ鳰さんを見ると、視線に気付いた鳰さんも俺を見て……。
──初めてちゃんと、笑った。
俺は、お互いの目を見てちゃんと笑い合えたことが、この時本当に嬉しかった。
ただ当たり前のように人ができていることが、ようやく鳰さんとできて、嬉しかった。
笑った鳰さんのことが……俺は、好きなのかもしれない。
好きになるのには、もう十分だった。
*
「はぁ、やば……めっちゃ濡れましたね」
何とかお店のエントランスの屋根下まで来ると、びっしょり濡れた髪の毛をかき上げる。
「傘壊れるとは思ってなかった」
「ホ……ホントですよね」
「何やってるんだろ」
俺が笑うと、先程のように鳰さんも笑う。
ちゃんと、彼女は笑っている。
……が、鳰さんの着ている白いブラウスが思いっきり透けており、下着が露わになっていることに先に気付いてしまい、俺は目のやり場に困ってしまった。
これも濡れてはいるが色も濃いしマシだろうと、急いで着ていた紺色のシャツを脱いで、鳰さんに差し出す。
「……え?」
「透けてるから、これ着て」
「へ……わっわぁっ」
鳰さんは俺のシャツを受け取ると、すぐに反対を向いてそれを羽織る。動揺したいのはこっちも同じだ。
「す、すみません。……お、見苦しい、所を」
「……いえ」
準備の良い鳰さんはタオルを二枚持って来てくれたらしく、一枚を借りると髪をバサバサ拭く。その際洗剤の良い香りがして、少し鳰さんのことを近く感じた。
「肌寒いし、拭いたら中入りましょうか」
「そう、ですね」
お互い顔を赤くしたまま中に入ると、一瞬店員に驚いた表情をされたが、すぐに奥のテーブルへと誘導された。タオルで拭っても、髪の毛はお風呂上がりのように水気を吸っているからだろう。
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