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第五章 『キスが落ちる』

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「俺が都ちゃんのこと、襲うって警戒してるの?」

「ちが……けれど、部屋には行けない」

「そっか……残念だな」

「……ご、ごめん」

 守屋君のことは好きだし、役にも立ちたいと思って奈古君の約束を断ったのに、何故だかこの時、初めて脳裏に奈古君が過ぎっていた。

 何でこんな時に、奈古君が……。

 そのままマンションのエントランスまで来ると、エレベーターに乗り10階に着き、守屋君の部屋の目の前まで来ると、私は持っていた彼のバッグを差し出した。

「じゃ、あ……私はここで」

「ホントに帰っちゃうんだね」

「……うん、私はここで」

「ショックだな」

 わざとげに言う守屋君に頭をペコペコ下げていると、守屋君は左側の松葉杖を扉に立てかけると、長い腕を伸ばし──

「えっ」

 私の頭の後ろを手で包み込むと、守屋君はそのまま前のめりになって……。

 ──気付けば、私達の唇は重なっていた。

「……っ!」

 驚いてすぐに離れると、体勢を崩した守屋君が、私に覆い被さる。

「もっ、守屋君」

「こんなことするつもりじゃなかったけど、都ちゃんが俺のこと避けるから」

「さ……避けてなんか、ないよ」

 ──私の、ファーストキス……。

「嘘、避けてた」

 守屋君は私に体重をかけたまま、吐息を零した。

「俺、今都ちゃんのこと好きだよ」

「……あ、ありがと」

「俺達、これから付き合うって無理かな?」

「……え、えと」

 もしかして好意を寄せられているのでは、という気持ちはあったものの、それが露わになると驚きもする。

「無理なら、まず俺のことを男として見てくれない?」

「……ちゃ……ちゃんと、今答えられなくてごめん」

「いいよ、俺達ずっと友達だったしね。都ちゃんの返事待ってるよ」

「……うん。私……か、帰るね」




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