52 / 95
第五章 『キスが落ちる』
4
しおりを挟む~奈古千隼~
鳰さんと約束をした金曜日、桃園が授業をサボった。
これまでにも数度、桃園は無断欠席したことはあり、俺は一人で大講義室の後方の席に着く。
授業が始まるまでの時間、携帯を開いて今日夜行くお店を調べていると、すぐ後ろに人の気配を感じた。
気になって振り返ると、唇がぶつかりそうなくらい近くに風上さんの顔があって、驚いて顔を離す。
「……ビックリした」
「奈古君、お疲れ様。今日、桃園君は?」
「サボるって」
「あ、悪いんだー。でも、それなら隣座っていい?」
風上さんはいつも一緒にいるグループの輪を抜けて、俺のすぐ隣に座ってくる。
「携帯、何見てたの?」
「ちょっとお店を」
「誰かと行くの?」
「うん、まぁ」
元々が距離の近いスタンスなのか、二人だけでは殆ど話したことのない風上さんが、グイグイ質問してくる。
「この間一緒にいた、ニオさんって人と行くの?」
「そうだけど」
「付き合ってないんだよね?」
「うん」
そこでちょうど授業開始のチャイムが鳴り、年老いた教授が講義室に入って来た。
でも実際、大学の授業とは厳しいものと緩いものの差が激しく、今日の授業は後者であり、風上さんはコソコソ小声で話を続けた。
「あの人、職員さんなんだよね? どうやって知り合ったの?」
「どうって……説明するほどのことじゃないよ」
「あの人のこと、好きなの?」
「いや……別にそういうんじゃ」
「私も奈古君と二人で会いたいな。誘っていい?」
綺麗にピンク色にネイルされた長めの爪が、机上でカタカタ音を立てる。
「桃園達も誘って、皆でどこか行けたらいいね」
「二人は嫌?」
「嫌っていうか……俺、風上さんのこと何も知らないし」
「知らないからこそ、仲良くなりたくて言ってるんじゃない」
そうは言われても、正直乗り気じゃない自分がいて、俺は適度にかわす。
「ま、奈古君のそういうクールな所も、良いんだけれどね」
「……どうも」
「私も今彼氏いないんだ。募集中なの」
「へぇ、そうなんだ」
「奈古君のこと、結構タイプ」
風上さんの方を見ると、彼女はクルクル巻かれた髪の毛を左手で弄っている。
「奈古君と、もっと仲良くなりたいな」
「ありがと」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる