39 / 95
第四章 『雨音に耳を澄ませて』
4
しおりを挟むそして暫く時間が経つと、再び桃園に声を掛けられ、鳰さんと一緒に先に帰ると言い出した。
「桃園、もう暗いし鳰さんのこと、送って行って」
「言われなくても分かってるってぇ。任せろ」
「も、桃園君、いいよ。大丈夫で……」
「桃園、危ないから送って」
断ろうとする鳰さんの言葉にかぶせて言うと、鳰さんは苦笑いを零した。
──あ、さっきの笑顔とはまるで違う。
「じゃ、先に帰るわ。奈古、後頑張ってな」
「……ん、また。お疲れ」
桃園は鳰さんの肩を握ると、カフェを出て行った。
あのまま変なことをしないといいが、さすがにそれはないだろう。桃園はあぁ見えても、悪いことはしない、と俺は思っていたから。
「あ、奈古君、エビフライできたから運んで」
「分かりました」
店内にいる人達は、皆お喋りをしながらこの場を楽しんでいるのに、俺は最後まで鳰さんのことが気がかりになってしまい、全て片付けまで終わってカフェを出た所で、傘を差しながら初めて鳰さんに電話をかけてしまった。
『も……し、もし』
「あ……奈古です」
勢いで電話をかけてしまったが、きっと鳰さんは電話が苦手なはずだった。
『奈古君……? ど、どうかしました?』
「無事にアパート帰れたかなって、それだけです」
『わ、わざわざ、ありがとう。か、帰れ、ました』
声がきつそうなのが伝わってきて、電話を切った方がいいかと心配になる。
『な、奈古君の方は、パーティー終わったん、ですか?』
「片付け終わって、今お店出てきた所です」
『……そ、そっか。気を付けて帰って下さい』
「男だから、大丈夫ですよ」
ちょうど音楽を聴いていたのか、電話の向こうで音が漏れている。
「パーティー、楽しめました?」
『は、はい。桃園君、いたから、何とか』
「良かったですね。鳰さん、笑ってたみたいだし」
この返事にどう返ってくるか、とも思ったが、鳰さんは沈黙の後、それじゃあ……電話を切ろうするのが分かった。
そこは察して、自分もサヨナラの態勢に入る。
「じゃ、また。おやすみなさい」
『お……おやすみなさい』
電話を切った後、俺は雨の降る真っ暗の空を見上げて、溜め息を吐いた。
今、らしくないな、自分。
別にどうでもいいじゃん、楽しんでもらえたのは、良いことだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている
ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。
夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。
そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。
主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
シンデレラダンス【社交ダンス×純愛】
宝ひかり
恋愛
「俺と一緒に踊りませんか」
──始まりは、幼馴染の翔馬が社交ダンス部に入りたい、と言ってきたことだった。
生まれつきの難聴で、音をうまく聞き取れず、言葉で話すことのできない三保にき。
しかし、翔馬がきっかけで、にきは社交ダンス部に入部することになる。
小さな頃からにきのことが好きだった、年下の翔馬。
そして、部内でにきとパートナーを組むことになった、慶一郎。
二人に揺れながら、消極的だったにきは、大きな一歩を踏み出そうとしていた。
私、踊りたい。踊れるようになりたい。
社交ダンスを通した、甘酸っぱい青春グラフィティ。
執筆期間 2017.05.23~05.31
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる