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第三章 『笑った方がいい?』
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しおりを挟む「あ、あの、奈古君」
「はい?」
「も……も、桃園君に、私の病気のこと言ってないんですか」
「あぁ、言ってないです」
迷ったものの桃園に言わなかったのは、何となく、桃園に言うと無駄に騒ぎ立てるような気がしたからだ。
桃園に悪気はないだろう。でも、鳰さん自身が質問攻めにあって嫌な思いをするのなら……と勝手に決めつけていた。
「言った方がいいですか」
「……いえ、それ、は。ただ、何で言わないんだろうって」
「そっちの方が、色々聞かれなくて楽かなって」
「……そ、そ、うですか」
やがて大通りに出て道幅が狭くなると、俺は鳰さんと肩を並べて車のヘッドライトに照らされながら歩く。
「じ、実は今日、部署の飲み会があってるんです」
「え、そうなんですか。そっちに行った方が良かったんじゃ」
「……いえ、の、飲み会苦手なんです。こんなんだから、声、届かないし」
鳰さんは用事があるから、とすんなり断る理由があって良かった、と言った。
「鳰さんは、土日何するんですか?」
「……も、守屋君と約束があります」
「頻繁に会ってるんですね」
「そ、そう、ですね。誘ってくれるから、感謝してます」
もし誘う相手が俺だったら? 嫌がられるのだろうか。
守屋さんだからこそ、嬉しい?
大通りから駅を通り過ぎると、一気に静かな暗闇に包まれ、鳰さんは俺からまた距離をとる。
「何気に、鳰さんとはちょこちょこ会ってますよね」
「……た、確かにそうかも」
「これでも、俺にとったら鳰さんが一番の女友達なんですよ」
「……と……友達」
鳰さんはオウム返しに呟くと、俺を見上げた。
「すみません、友達って言い方はあれか」
「……う、ううん。友達……」
「友達って言ってもいいんですかね」
「……はい」
また消え入りそうな返事。
だが、頷いた鳰さんはそれ以上何も言わずに、アパートの目の前まで到着した。
「なっ奈古君、今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
鳰さんは小さく手を振ると、小走りで階段を上り、その途中でまた俺の方を見てきた。
そこでもう一度俺が手を振ると、鳰さんの方も手を振り返してくれた。
鳰さん、少しは楽しめたかな。
俺は、無口なりに楽しめたけどな……。
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