上 下
18 / 95
第二章 『何かが始まる時』

4

しおりを挟む





~奈古千隼~

「そういえば、鳰さん、カフェに来た」

 週明け月曜、俺は休みぶりに顔を合わせた桃園に、思い出したように告げた。

「え、マジ。みやちゃん来たんだ」

「男と一緒だった」

「はっ、男?」

「うん、優しそうな男」

 金曜日、カフェを訪れた二人は親しげで、遠目からしか確認できなかったが、鳰さんの方も男に笑顔を見せていた。

 あの人、あんな風に笑うんだ。いつもは苦笑いばかりで、笑ったことないんだと思うくらいだったのに。

「えーでも、彼氏いないって言ったよね?」

「じゃ、友達なんじゃない?」

「友達かぁ……てか、さ。さっきの授業中、林田《はやしだ》に合コン誘われた」

「林田? 良かったじゃん、行ってくれば」

 林田と桃園はそれなりにつるむ仲であり、桃園を通して自分も話をする程度の付き合いだった。

「うん、彼女は愚か女の子の友達もいないし、行こうと思ってるんだよ。それでさ、奈古も来てよ」

「は、俺も?」

「うん、ルックス担当がいないし、お前も出会いは欲しいだろ」

「俺は特に必要ないんだけど」

 大学では桃園と一緒に行動したり、一人でも問題ない。付き合いはバイト仲間もいるし、十分だと思っている中での誘いだった。

「今日の夕方からなんだけどさ、奈古バイト入ってなかったよね?」

「今日の夕方って、あとこの授業終わってすぐじゃん。いきなりなんだけど」

 てか、何、合コン? 行ったことなく、戸惑いがある。

 しかし、桃園は授業中に林田に勝手に連絡を入れており、最終的に自分も強制参加することになってしまった。

 いやでも、気乗りしないのに金払って行くのもな……。

「お前、鳰さん目当てっぽかったのに、早々に裏切りかよ」

「みやちゃんはみやちゃんなの。悪い?」

「さぁ、どうだろ。知らない」

 授業が終了すると、俺は桃園と林田と一緒に一号館を出て、北門へ足を進める。

「奈古っち、参加決めてくれてありがとう。助かるよー」

「……まだ迷ってるんですけど」

「いいじゃん、こういう付き合いもさ。出会い大事だよ、出会い」

 空気のかる~い林田を横目に、桃園と林田の少し後ろを着いていく。

 ……と、無言で中央会館を通り過ぎようとしている時、ちょうど鳰さんが内扉を開けて外に出てきた。

 バッタリ、というような形で、その瞬間桃園が嬉しそうに彼女に駆け寄った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

何も出来ない妻なので

cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。 お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。 「何も出来なくて申し訳ありませんでした」 短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。 ※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。 ※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...