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第一章 『花びら落ちた』
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しおりを挟む間もなく運ばれてきたチーズケーキは、タルト部分がザクザクしており、絶妙な美味しさだった。
「え、うっま」
言葉が漏れて視線を上げると、鳰都がこちらを見ており、目が合うと気まずそうに微笑まれた。
「……あの。別に、無理して喋らなくていいですよ」
「あっ……は、はい、すみません」
「謝られることでもないんで」
俺は言うと、切り分けたケーキを口に運ぶ。
「奈古、感じ悪いぞぉー、みやちゃん怖がっちゃうじゃん」
「怖がらせるつもりで言ったんじゃ」
寧ろ、気を使って言ったつもりだったが。
「みやちゃん、奈古、悪い奴じゃないんですよ。ちょっと愛想悪いけどね」
「わ、悪い人じゃないの、は……分かってるので」
お世辞か。何も知らないくせに。
その後、俺は空気と化して、桃園が終始鳰都に質問攻めだった。
話を黙って聞いていると、どうやら鳰都は、俺の住むアパートの二階で一人暮らしをしているらしい。
大学に入学して一ヶ月、俺達は知らぬ間に顔を合わせたことはあったのだろうか。
一時間程ファミレスで過ごすと、その日は現地解散になり、桃園はファミレスから西に、俺と鳰都は東に歩を進める。襲うなよ、なんて言われたが、そんな気サラサラないんだけど。
桃園がいないと本当に静かで、薄暗闇を二人無言で歩くだけ。やけに不揃いな足音が煩い。
何か、話した方がいいのか?
でも、話すのきつそうだし、このまま黙って帰った方がいいのか。
不愛想なりに、この場は気を遣う。
……と思っていると、話を始めたのは彼女の方だった。
「な、奈古君は……桃園君と、仲良いんですね」
「まぁ、はい。そうですね」
「と、友達って……良いですよね」
「そうですね。年上だし、普通に話してもらっていいですよ」
「あっ……それは……ち、ちょっとまだ抵抗あって」
確かに、すぐに馴れ馴れしくなれるようなタイプには、到底見えないが。
「別に、気を使わなくてもいいのに」
ボソッと言った言葉は、この静けさだから、きっと鳰都の耳にも届いただろう。
結局、その後は何も言わずにアパートの前まで来てしまい、鳰都はペコペコ頭を下げながら外階段を上ってゆく。
「鳰さん」
俺が呼び止めると、振り返り気まずそうに笑われた。笑顔が思いっきり引きつっている。
「あ……おやすみなさい。また、どこかで」
「あっ……はい。また。お……おやすみなさい」
慣れないな、でも、“また”だって。
──桜が散ってしまった季節に、俺達はこの街で出会った。
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