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第一章 『花びら落ちた』

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~奈古千隼《なこ ちはや》~

「なー、結局あのお姉さん、何だったんだろ」

「……別にもうよくない? 気になる?」

 この春T大学に入学し、それまでの生活とは一変、一人暮らしを始め、新しい友達もできた。

 入学式の時に、たまたま隣に座っていた桃園周《ももぞの しゅう》とは、よくつるむようになり行動を共にしていた。

 桃園の言う“あのお姉さん”とは、おそらく中央会館の学生課にいた職員のことだろう。

「赤くなって、慌てて、挙動不審で可愛くなかった? 若そうだったし」

「新入職員なんじゃない?」

「次は緊張しないか、また見に行こうか」

「俺はパス」

 一段と明るめの茶髪の桃園は、本人曰く大学デビューらしく、ここで初めての彼女を作るんだと早々に意気込んでいた。

「てか、腹減った。学食行ってくる」

「なぁ、奈古。行ってくる、じゃなくて一緒に行こう、だろ。俺等友達じゃん」

「別にいつも一緒じゃなくても」

 男の俺にいつもベタベタ纏わり付いてくるタイプの桃園だから、彼女でも出来たらもう四六時中ベッタリなのが簡単に想像できる。

「俺も腹減ったー、喉乾いたー」

「ちょうどお昼だから、人多いかもね」

 中規模大学だが、それなりに人は多く、学校内はいつも賑わっている。

 今はサークル勧誘の時期でもあり、一号館から食堂のある中央会館に向かう最中、道を歩きながらいくつか声をかけられた。

 写真に美術系、登山に乗馬、社交ダンス……。

 特に今の所サークルに入りたいとは思っておらず、俺がこの大学の経済学部に入学したのは、祖父の経営するIT系の会社を後々継ぐためだった。

「奈古、興味なさそうな顔してるね」

「桃園は女の人から声かけられて、鼻の下伸ばしてたな」

「ちげっ……俺はそんなに単純な男じゃないからな」
 GWを過ぎ、新緑の季節。頭上の木々は日の光を浴びてキラキラしており、俺は目を細めた。

 そして、サークル勧誘をすり抜けて、いざ見えてきたレンガ造りの中央会館へ入ろうとした時、ある人物が小走りで外階段を下りてきた。

 ──また……会った。

 その人物は、桃園が会いに行こうと言った大学職員であり、なぜその人物のことをこんなにまでハッキリ覚えていたかというと、単純に、彼女は物凄く容姿が整っていたからだと思う。




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