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第六章 『ずっとにきを想ってた』
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しおりを挟むまさに、その通り。
まさか宝先輩もにきのことを好き、ということまでは知らないようだが、舞子ちゃんは的確な所を付いてくる。
『そういうの、どうかと思う。にきの気を引きたいだけなんじゃない?』
──返す言葉が見つからなかった。舞子ちゃんは正論を告げ、じっと俺の様子を伺ってくる。
『本当ににきのことが好きなら、背中を押してあげてもいいんじゃないの』
苦そうなアイスコーヒーを飲む舞子ちゃんは落ち着いており、別に怒っているわけではないが恐縮してしまう。
『翔馬がにきのことを本当に好きなのは、ずっと近くで見ていたから、分かってるけれど』
でも……とその後に続いた手話を見て、俺は薄く口を開いてしまった。
『私も昔から翔馬のことが好きだった』
──え……それ、マジ?
『それでも、翔馬がにきのことを好きだから、二人のことを応援しようと思ってた』
だからと言うわけではないが、にきにも好きな人がいるならば、応援することも大事なのではないか、と言ってきた舞子ちゃんに、俺はじわじわ顔を赤くする。
全然気付かなかった。舞子ちゃんが、俺を好きだったって……? 信じられない。
『にきのことを諦めて、私と付き合ってとは言わないよ。でも、にきの気持ちも考えてあげてよ』
ずっと俺達三人は友達だった。
だからこそにきの気持ちを分かっている舞子ちゃんは、俺の背中を押してくる。
俺はにきのことを心から好きだった。誰にも負けないくらい、好きだった。
それでも、にきには好きな人がいて、新たな一歩を踏み出そうとしている。
好きだから、かまってほしいからと当てつけがましく部活を辞めるなどと言って、笑顔でいてほしい人を困らせている。
このままでは、にきは一歩を踏み出せない。
『せっかく入った部活、簡単に辞めるなんて言うの、やめなよ』
……。俺は下を向いて、自責の念に駆られる。そうだよな、いろんな人を巻き込んで、勝手なことを言って。
『舞子ちゃん、ごめん』
『私は謝られること、何もされてないから』
『俺、にきと話したい。にきの所へ、今から行ってこようかな』
『うん、行ってきなよ。また、笑顔で部活で会おう』
『ありがとう、行ってくる』
俺は舞子ちゃんと別れると、走ってにきの家へと向かおうとする。
外へ出ると、雨は止んでいて、雲間から日差しが見えていた。
にきに会いたい。全部伝えて、俺は小さく怯えていた背中を押すべきなんだ。段々歩調が早くなって、走ってにきの家を目指す。
しかし、途中の公園まで来た時、俺は公園の奥から買い物袋を持って歩いてくるにきの姿を見つけた。間違いない、あれはにきだ。
そのまま走って近付くと、俺の存在に気付いたにきが立ち止まる。息を切らして目の前まで来ると、にきは今にも泣きそうな表情で俺を見上げた。
傘を腕にかけ、座りもせずに久しぶりに手話を交わす。
『にき、ごめん』
心配ばかりかけさせて、こんな表情をさせて、俺は一体何をしているんだ。
『俺、部活辞めないから。また頑張るから』
『……翔馬。ごめんね』
『謝らないでよ。にきに好きな人ができて、一歩前進じゃん』
小さな頃からずっと一緒で、俺はにきのヒーローだった。泣いて怒って笑い合って、兄妹のように暮らしてきたからこそ、にきが自分から離れてゆくのは本当に寂しい。
泣きそうなにきに、俺もうるっときて、そっぽを向く。
だが、ちゃんと目を見なければならない、と思ってにきを見つめると、にきの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
『泣くなよ』
『……良かった。このまま翔馬に一生避けられたら、どうしようと思ってた』
『おおげさ、そんなわけないじゃん』
いつものようににきの頭をポンポン撫でると、にきは泣きながら笑う。
『宝先輩とのこと、応援するから。頑張れよ』
『ありがとう』
頑張りたいと思う、と言ったにきに笑い返すと、雲間から顔を出した夕日が俺達を照らした。
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