エタニティ・イエロー

宝ひかり

文字の大きさ
上 下
80 / 83
『エピローグ 愛を繋いで』

1

しおりを挟む





~幸いより~

 私と駿ちゃんが結婚していたことは、レストラン全体に知られてしまった。

 でも、だからと言ってクビになるなんて理不尽なことはなく、私は平気なふりを装いMレストランで働いており、意外と周りもそうなんだー程度で、店長と少し話したくらいだった。

 言ったらしい双川さんからは謝罪され、変わらず駿ちゃんからは想いを伝えれることもあるが、私は、とても前向きに生活をすることができるようになっていた。

 遠くにいても、篝さんとはお互い信じ合えていると、思っていた。

 彼との出会いから想いを伝える前まで、短かったようで、かなり長く、自分の気持ちに気付かないもどかしい日々の連続だった。

 でも、今はハッキリと言えるこの“好き”の幸せな気持ちを、私は噛み締めていた。

 会えない分、連絡はマメにとっており、電話も数回。電話は緊張しても、嬉しい気持ちの方が大きくて。

 九月末の転勤からもうすぐ三ヶ月、年末のお休みに入ってから、篝さんは三ヶ月ぶりにC街へと帰ってきた。

 Mレストランは年中無休で営業しており、その日も空港へ迎えに行けなかった私は、仕事終わりに指定された場所へと急いで向かった。

 場所は何度か行った安めの居酒屋であり、私が暖簾をくぐると、奥から英木さんが手を振ってきた。

 そしてその隣には久しぶりに見る篝さんがおり、彼も笑顔で手を振っている。

 ──わ……篝さんがいる……。

 今日は尚美と英木さんも一緒に、四人で忘年会をする予定になっており、私はこの日を楽しみにしていた。

 緊張はしても、篝さんと想いが繋がってから前を向く機会が少しずつ増え、異性の英木さんとも、少しばかり前より砕けて話せるようになっていた。

「篝といよりさん、久しぶりじゃん。二人とも嬉しいだろ」

「嬉しいに決まってる。幸さん、三ヶ月ぶりですね」

「って、まだ敬語で話してるのかよ。お堅いなぁ」

 篝さんに絡む英木さんの姿、久しぶりに見た。

「……久しぶりですね。……ずっと、会いたかったです」

「わっ、いよりそんな恥ずかしい言葉、私達の前でも言えるようになったんだ」

「えっいや……そう、だね。今のは、取り消したい……」

 三ヶ月ぽっちじゃ見かけもそう変わらないが、篝さんの笑顔がやたらキラキラしていて、顔を見たいのに見れなくて、恥ずかしい。

「ダブルデート、いいな。篝はいつ地元に帰んの?」

「明日かな。大晦日と元日は実家にいて、またあっちに帰る前に、C街で幸さんと会えたらなって思ってるけど……幸さん、大丈夫?」

「私の方は、大丈夫です。……また、年明けたら初詣、行けたらいいですよね」

「えー、篝さん明日帰るなら、もしかして今日二人はお泊り?」

「「えっ」」

 尚美のわざとげな言葉に、私は篝さんと同時に反応してしまった。

 その予定はなく、私はバリバリこの後電車に乗って、家に帰るつもりだったのだ。

「や、そんな。俺、一人で予約してますし」

「なに~、篝、シングル?」

「年末で空いてなかったから、ダブルだったかな」

「じゃあ、予約変更して、いよりさんも一緒に泊まっちゃえばいいじゃんっ。てか、実は最初から、いよりさんも泊まらせるつもりだったじゃ……」

「はっ違うし! そこ勘違いしてほしくないんだけどっ」

 まだビールを数口飲んだだけの篝さんが、物凄く顔を赤くして首を振っている。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

傷痕~想い出に変わるまで~

櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。 私たちは確かに愛し合っていたはずなのに いつの頃からか 視線の先にあるものが違い始めた。 だからさよなら。 私の愛した人。 今もまだ私は あなたと過ごした幸せだった日々と あなたを傷付け裏切られた日の 悲しみの狭間でさまよっている。 篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。 勝山 光との 5年間の結婚生活に終止符を打って5年。 同じくバツイチ独身の同期 門倉 凌平 32歳。 3年間の結婚生活に終止符を打って3年。 なぜ離婚したのか。 あの時どうすれば離婚を回避できたのか。 『禊』と称して 後悔と反省を繰り返す二人に 本当の幸せは訪れるのか? ~その傷痕が癒える頃には すべてが想い出に変わっているだろう~

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...