エタニティ・イエロー

宝ひかり

文字の大きさ
上 下
47 / 83
第五章 『アジサイ、揺れる』

7

しおりを挟む






「え? あぁ、はい、自分はそのつもりですけれど」

 ふいうちの質問に答えると、美野田さんはこちらを見つめ、一度だけ頷いた。

「分かりました、だったらいいです」

「何かあったんですか?」

「俺、いよりとやり直せたらと思ってます」

「……そうなんですか?」

「だから、邪魔しないでほしいです。友達なら、友達としてだけ、付き合ってほしくて」

 言いたいことはそれだけです、と言い残すと、美野田さんは足早にこの場を去っていった。

 嬉しそう、誰と会うんだろ。

 てか、幸さんのこと、まだ好きだったんだ。やり直すつもりだって、言ってた。

 傷を負ったはずの幸さんと、彼女に傷をつけた美野田さんが、再び……。

 しかし、どうにも二人が手を繋いで歩いている姿を想像すると、心の奥底がざわついてしょうがない。

 幸さんが心配だから? 幸さんにとって、それは幸せなのだろうか、と思う所があるから?

 何だろ……何なんだろ……。

 でも、ここで立ち止まっているわけにはいかず、俺は納得のいかない感情のまま、考え事をしながら十分先にあるカフェに到着した頃、ちょうどお店に入った入り口の椅子に涼香は座っていた。

「あ、篝君、今、中満席なんだって。ここで待って下さいって」

「そうなんだ。先に並んでくれてたんだね」

「次に呼ばれるらしいから、もうすぐだよ」

 手招きされ涼香の隣に座ると、再び入り口の扉が開いて次のお客が入ってきた。どうやらここは、人気のカフェらしい。

「こうやって、二人でいろんな行列に並んでたの、懐かしいよね。F松のラーメン屋さん、覚えてる?」

「覚えてるよ。オープンしたばかりで、二時間待ちだったよな。あそこのラーメンは格別だった」

「また行こうよ。随分前に行ったっきりで、また行きたいんだよね」

 隣に座った涼香は笑顔で、本当に、彼女と付き合っていた日々が懐かしく感じられる。たまに喧嘩をすることはあっても、今思えば楽しい思い出ばかりだ。

 でも、どうしてだろう。

 どうにも先程の美野田さんの言葉に納得ができずに、俺はどこか上の空で涼香の言葉に頷く。

 友達って、なんだ? 邪魔しないでって?

 美野田さんにとっての幸さんって? 俺にとっての幸さんは?

 俺にとっての、幸さんは──

 ……と、ぼんやり前方の雨降る窓外を見ていると、ふと、想っていた彼女の横顔が一瞬だけ現れて、すぐに消えてしまった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

夫の心がわからない

キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。 夫の心がわからない。 初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。 本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。 というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。 ※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。 下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。 いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。 (許してチョンマゲ←) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

処理中です...