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第五章 『アジサイ、揺れる』
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しおりを挟む「え? あぁ、はい、自分はそのつもりですけれど」
ふいうちの質問に答えると、美野田さんはこちらを見つめ、一度だけ頷いた。
「分かりました、だったらいいです」
「何かあったんですか?」
「俺、いよりとやり直せたらと思ってます」
「……そうなんですか?」
「だから、邪魔しないでほしいです。友達なら、友達としてだけ、付き合ってほしくて」
言いたいことはそれだけです、と言い残すと、美野田さんは足早にこの場を去っていった。
嬉しそう、誰と会うんだろ。
てか、幸さんのこと、まだ好きだったんだ。やり直すつもりだって、言ってた。
傷を負ったはずの幸さんと、彼女に傷をつけた美野田さんが、再び……。
しかし、どうにも二人が手を繋いで歩いている姿を想像すると、心の奥底がざわついてしょうがない。
幸さんが心配だから? 幸さんにとって、それは幸せなのだろうか、と思う所があるから?
何だろ……何なんだろ……。
でも、ここで立ち止まっているわけにはいかず、俺は納得のいかない感情のまま、考え事をしながら十分先にあるカフェに到着した頃、ちょうどお店に入った入り口の椅子に涼香は座っていた。
「あ、篝君、今、中満席なんだって。ここで待って下さいって」
「そうなんだ。先に並んでくれてたんだね」
「次に呼ばれるらしいから、もうすぐだよ」
手招きされ涼香の隣に座ると、再び入り口の扉が開いて次のお客が入ってきた。どうやらここは、人気のカフェらしい。
「こうやって、二人でいろんな行列に並んでたの、懐かしいよね。F松のラーメン屋さん、覚えてる?」
「覚えてるよ。オープンしたばかりで、二時間待ちだったよな。あそこのラーメンは格別だった」
「また行こうよ。随分前に行ったっきりで、また行きたいんだよね」
隣に座った涼香は笑顔で、本当に、彼女と付き合っていた日々が懐かしく感じられる。たまに喧嘩をすることはあっても、今思えば楽しい思い出ばかりだ。
でも、どうしてだろう。
どうにも先程の美野田さんの言葉に納得ができずに、俺はどこか上の空で涼香の言葉に頷く。
友達って、なんだ? 邪魔しないでって?
美野田さんにとっての幸さんって? 俺にとっての幸さんは?
俺にとっての、幸さんは──
……と、ぼんやり前方の雨降る窓外を見ていると、ふと、想っていた彼女の横顔が一瞬だけ現れて、すぐに消えてしまった。
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