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第一章 『私の日常』
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しおりを挟む~篝千《かがり せん》~
北の田舎町からC街に出てきて、四年大学を卒業後、俺はC街内にある結婚式場に勤めることになった。
人々の幸せな瞬間に携われることは嬉しく、結婚式場に就職したいというのは、高校の時からの夢で、その夢を見事に叶えることができた。
大学卒業時の22歳から働き始め四年、今年26歳の誕生日を迎えたのだが、一人前のウェディングプランナーになるには、まだまだこれからだ。
「篝さん、今日はMレストランに行くのよね?」
「はい、試食会が入っているので。松本《まつもと》さんと行ってきます」
松本さんは俺の上司で、尊敬できる女性プランナー。松本さんはいくつかの店舗を転勤し、元々は経理の事務をしていたのだが、数年前から本人の希望でプランナーとして働いている。
元々俺の勤めるこのR式場でも、チャペルや披露宴会場があり毎週末結婚式が行われているものの、これからMレストランでのレストランウェディングも、この式場が引き受けることになっていたのだ。
主な担当は自分になりそうだが、今日は松本さんも一緒にMレストランに向かう。
「篝君、この間Mレストラン見てきたんでしょ。どうだった?」
「中は広くて吹き抜けだし、素敵な所でしたよ」
今日は会場であるMレストラン現地集合であり、四組のカップルが試食会に参加する予定である。
式場からバスに乗って十五分、そこから歩いて五分行くと、大通りに面してMレストランは立っている。ここへ来るのは先日の見学会以来である。
「こんにちは、お世話になります」
扉を開けると、おそらくスタッフである一人の女性が出迎えてくれ、店内には二組のカップルが席についていた。
「森川店長いらっしゃいますか」
「はい、お呼びしますので少々お待ち下さい」
スタッフは笑顔でここを去り奥の部屋に消え、そこで俺は室内隅の方に立つ、一人の女性に目がいった。
彼女の名前は知らないが、一度駅の改札口でぶつかってしまい、このレストランで再会した。どうやらここで働いているらしい。
見るからにおどおどしていて、何だか挙動不審気味のため、忘れることはなかったのだ。
「え、いよりさん?」
しかし、俺が彼女に挨拶をしに行くよりも前に、隣に立つ松本さんが笑顔で彼女に駆け寄っていく。
続けて自分も後を追うと、松本さんが親しげに彼女に話しかけ、相手の方も驚いているように見えた。
「……松本さん?」
「そう、松本。R式場でいよりさん達を担当していた、プランナーの松本です」
“いより”と呼ばれた女性は小さく頷きながらも、下を向きがち。
「篝君、この方、私が入社後初めて一人で担当した、美野田いよりさんなの。わぁっ、お久しぶりですね」
「そう、ですね。お久しぶりです……」
元気のなさそうなか細い声で話をする美野田さんは、松本さんとは違い笑顔を見せない。
「その後、旦那様とは上手くいってますか? お二人、お似合いだったもんなぁ」
「それが……その」
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