上 下
172 / 184
ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第二十三話 相談

しおりを挟む
「はぁ」


 眠れない。シュヴェルツェにちゃんと謝らなければと心がざわついている。

 あの後、風呂をでてから、シュヴェルツェを探したが、見つからなかった。城中メリーナと風呂の側近たちと探し回ったが、姿はなかった。どこへ行ったのだろうか。


(こんな時、相談相手になってくれる鬼神がいれば良いのに)


 メリーナは十分相談に乗ってくれる。けれど今回の件についてはあまりメリーナに相談したくない。メリーナはシュヴェルツェが嫌いだ。シュヴェルツェの悪口が帰ってくる未来しかみえない。
 鬼神王は溜息をつき、寝返る。


「......あ」


 あることを思い出した。相談相手になってくれるか分からないが、話せる相手はいるではないか。
 鬼神王は起き上がると、クローゼットから、上着を取り出した。そして上着を寝巻きの上から着ると、部屋の扉をそっと開いた。


(いくら探してもヴェルは見つからないんだし、ちょっとぐらい勝手に一神で出歩いても良いよね)


 当然メリーナは眠っている。他の側近たちもだ。起こすわけには行かない。シュヴェルツェはここにはいないようだし、勝手に出歩いているところなど、見つかることは無いだろう。

 鬼神王は足音を立てないようにゆっくりと歩き、城から出た。



 向かったところは......べトロたちがいる森だ。ずっと薄暗いアタラヨ鬼神国は夜になると更に暗くなる。一神でこの森へ足を踏み入れるのには少し勇気がいる。鬼神王は手から光の玉を出し、辺りを見渡しながらゆっくりと進んでいく。茂みから突然大きな虫が飛び出して来ないだろうか。目の前から突然凶暴な動物が現れないだろうか。あらゆる恐怖を抱きながら、進んでいく。


(この前はここら辺にいた気がするんだけどなぁ)


 べトロたちの姿が見つからない。沢山いるはずなのだが......一体も見かけることができていない。


(おかしいなぁ)


 風が冷たく、体が冷える。今日はここにはいないのかと諦めて戻ろうと振り返った。そして二歩ぐらい進んだ......その時。


「...!」


 鬼神王は地面から飛び出している木の枝に躓いてしまった。このままだと転んでしまう......。そう思った時。


「王......大丈夫デスカ......?」
「べトロ......」


 べトロが体を支えてくれたのだ。鬼神王は姿勢を正すと、体を支えてくれたべトロの頭を撫でて「ありがとう」と礼を言った。べトロは嬉しそうにする。


「みんなはどこに行ったの?」
「ズット此処二...イマス.....」


 べトロがそう言うと、茂みの方からべトロたちの姿が現れた。先程見てもいなかったような気がするのだが......


「王ガ我ラのコトヲ......探シテイタトハ知リマセンデシタ......ズット隠レテイテ......スイマセン」


 べトロたちは普段から鬼神たちに怖がられてしまう。そのため、普段ものこのように姿を消して生活しているのだろう。
 次からべトロたちに用がある時は、名前を呼ぼう。そう思った。


「王......何カアリマシタカ?」
「あー......分かる?」
「ハイ」


 鬼神王の表情を見て何かあったのだと思ったのだろう。べトロたちは鬼神王を心配し、集まってきた。


「王困ッテル」
「我ラデヨケレバ話聞キマス」
「ありがとう」


 とはいえここは木々が月の光を隠し、暗い。


「わっ」


 急に体がふわりと浮いたかと思ったら、べトロは鬼神王を横抱きにした。どうやら月の光が届く明るい所へ案内してくれるようだ。自分で歩けるのだが......また躓いてしまうかもしれないと、心配してくれているのだ。この森は地面が平らでは無い。特に暗い夜など、危険極まりない。


(べトロたちは優しいな)


 歩く度、べト......べト......と奇妙な音がする。
べトロ達のことを知らなければ、恐ろしい音に聞こえるかもしれない。けれど実はこんなに優しい。
 
 五分後、水の音が聞こえた。ここは前来た滝のところではないが、別の滝が見える。木々は無くなり、月明かりに照らされている池。水の音が心地よく、リラックス出来るような場所だ。
 べトロは鬼神王をゆっくり下ろした。そして鬼神王が座ると、べトロたちも鬼神王を囲むように座る。


 「僕さ......ヴェルに酷いこと言っちゃったんだよね」


 鬼神王は膝を抱えて座る。べトロは鬼神王の背中をさすったり、撫でたりする。ベトベトとした体が少し気になるが、べトロたちの優しさが伝わってくる。


「僕さ......自分のことがよく分からなくて、苦しいんだ。それでヴェルにあたっちゃった。ヴェルは昔の僕が言ったことをずっと守ってくれているのに、今の僕が知りたいからってわがまま言って困らせちゃった......」


 鬼神王はため息を着く。


「どうすればいいのかなぁ」


 鬼神王は顔をうずめた。
 王であるものがこのように落ち込むのは少し格好悪いような気がするが、王も皆と同じ鬼神だ。皆と同じように落ち込むことだってある。......皆より大きな悩みを抱えているのだ。


「シュヴェルツェハ王ガ目覚メルノヲズット待ッテイタ」
「ソンナコトデ、嫌イニハ......ナラナイハズ」
「ソンナニ落チ込マナイデクダサイ」
「ソウデス。我ラ王ノ笑顔好キ」                                                                                                        


 べトロたちは鬼神王を励ます。鬼神王は顔を上げ、涙を浮かべながら微笑んだ。


「へへ......やっぱりべトロたちは優しいねぇ」


 そう言って、右側に座っているべトロにもたれかかった。そのべトロはまるでずっと憧れていた人が抱きついてきたかのような反応をした。緊張しているのだろう。


「ふふ......」


 鬼神王は可愛く思い微笑んだ。他のべトロたちは羨ましい、自分も......と鬼神王に近づく。
 鬼神王はべトロにもたれ、目を閉じながら話し始めた。


「ねぇ。べトロたちは......昔の僕のこと、知ってる?」


 鬼神王はあることを思い出したのだ。前、この森で会った時、べトロたちは鬼神王のことを知っていた。鬼神王が眠る前からいたと言う。ならば知っているはずだ。
 べトロたちは次々と「ハイ」と返事をする。やはりそうだ。


「昔の僕、どうだった?」
「......シュヴェルツェ二......口止メサレテイルノデ言エマセン」
「言ッタラ我ラガ消エテシマウ......」


 どうやらべトロたちはシュヴェルツェに口止めをされているらしい。言ったら消えてしまう......これはどういことだろうか。契約でも結ばれているのだろうか。
 となればべトロたちにも聞けない。やはり昔の自分のことはどうしても知れないのだろうか。


「デモ昔......我ラハ王ヲ傷ツケタ」
「苦シマセタ」
「ゴメンナサイ」

「え?」


 鬼神王もたれるのをやめ、べトロ達の方を見た。
べトロたちは悲しそうに見える。
反省しているのだろう。けれど何があったか知らない。


「何があったの?言えないなら大丈夫だけど......」
「我ラ誰カノ命令ニヨッテ動ク」
「命令通リ二動イタ」
「王泣イタ」
「王苦シソウダッタ」

「泣いた......僕が......?」


 言えるのはこれだけだろう。べトロたちはこれ以上何も言えないと黙り込んだ。過去に鬼神王はべトロたちに苦しめられたという......。
 

(命令......)


 一体誰からの命令だろう。何者かが命令をし、王である鬼神王を苦しめた。......となると、鬼神王よりも上の立場の鬼神なのだろうか。いや、鬼神王より上のものはいない。では"神"......か。いや、べトロたちは鬼神だ。神などに命令されても動かないだろう。
 分からない。謎がもう一つ増えてしまった。


「じゃあさ、今の僕か、昔の僕、どっちがいい?」


 これなら大丈夫だろう。聞けなくとも、せめてずっと気になっていたこのことだけは知りたい。
 するとべトロたちは次々と答え始めた。


「今」
「今デス」
「今ノ王ノ方ガ好キ」


 鬼神王は嬉しくなった。急に心が軽くなったような気がする。


「ケド、昔トアマリ変ワリマセン」
「ソウソウ」
「イヤ、少シ違ウヨ」
「笑顔」
「ソウ、今ハ笑顔ガ増エタ」

「笑顔......?」


 昔の自分は今のように笑っていなかったのだろうか。
 しかし笑顔が増えただけで、そこまで変わりはないという。それなら安心出来る。今の自分と大幅に違えば、昔の自分に申し訳ない。
 

「なんか安心した。ありがとう。こんな夜遅くに付き合ってくれて」

「我ラハ王ト話セテ嬉シイ」
「我ラ退屈」
「王ガイル時間、我ラノ幸セ」
「アリガトウゴザイマス」


 そういうことならまた来ようと思う。べトロたちはずっとこの森で隠れていて退屈でしかないだろう。


「よし。そろそろ戻ろうかな」


 鬼神王はそう言って立ち上がる。べトロたちは眠るのか分からないが、もし毎日鬼神たちと同じように睡眠をとっていたら、ここで長居する訳にも行かない。


「それじゃあおやすみ」


 べトロたちは見送りをすると着いてこようとしたが、鬼神王は断った。
 一神で戻れるから......それも理由の一つだが、他にも理由はある。

 鬼神王が向かった場所は......立ち入り禁止の滝付近だ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

妹と人生を入れ替えました〜皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです〜

鈴宮(すずみや)
恋愛
「俺の妃になって欲しいんだ」  従兄弟として育ってきた憂炎(ゆうえん)からそんなことを打診された名家の令嬢である凛風(りんふぁ)。  実は憂炎は、嫉妬深い皇后の手から逃れるため、後宮から密かに連れ出された現皇帝の実子だった。  自由を愛する凛風にとって、堅苦しい後宮暮らしは到底受け入れられるものではない。けれど憂炎は「妃は凛風に」と頑なで、考えを曲げる様子はなかった。  そんな中、凛風は双子の妹である華凛と入れ替わることを思い付く。華凛はこの提案を快諾し、『凛風』として入内をすることに。  しかし、それから数日後、今度は『華凛(凛風)』に対して、憂炎の補佐として出仕するようお達しが。断りきれず、渋々出仕した華凛(凛風)。すると、憂炎は華凛(凛風)のことを溺愛し、籠妃のように扱い始める。  釈然としない想いを抱えつつ、自分の代わりに入内した華凛の元を訪れる凛風。そこで凛風は、憂炎が入内以降一度も、凛風(華凛)の元に一度も通っていないことを知る。 『だったら最初から『凛風』じゃなくて『華凛』を妃にすれば良かったのに』  憤る凛風に対し、華凛が「三日間だけ元の自分戻りたい」と訴える。妃の任を押し付けた負い目もあって、躊躇いつつも華凛の願いを聞き入れる凛風。しかし、そんな凛風のもとに憂炎が現れて――――。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...