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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第十八話 ルーシェ

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「えっ......僕?」


 急に騒がしくなった。この......女鬼神も有名な鬼神なのだろう。女鬼神は身長が高く、メリハリのある体つきでスタイルがよい。それだと言うのに足元を見ると高いヒールを履いており、さらにスタイルがよく見える。


「お前......」


 シュヴェルツェはこの女鬼神を知っているようで、呆れた表情を浮かべた。シュヴェルツェがなぜこのような表情を浮かべているのか分からない。すると、先程逃げていたメリーナが走って戻ってきた。


「ししょー!」
「師匠......?」


 メリーナは女鬼神の元まで走ってきて、抱きつこうとする。......が女鬼神は避けたため、メリーナは転びそうになった。


「酷いですよ!なんで避けるんですか!」
「お前はもう子供ではないだろう」


 まるで男鬼神のような口調だ。メリーナの性格とは真反対だ。また、メリーナとの身長差が大きく、まるで親子のように見える。


「えっと...メリーナの......知り合いさん?」
「はい!私が幼いころから色々なことを教えてくれたのがししょーなのです!ししょーはかっこいいんですよ~!」
「ふん。お前が弱いだけだ」


 女鬼神は腕を組んだ。実に冷たい。こんな冷たい性格だというのにメリーナはよく普通に話しかけれる。鬼神王はすごいと思った。


「名乗り遅れた。俺はルーシェ。シュヴェルツェの次に誕生した鬼神だ」


 ......ということはシュヴェルツェと同じぐらい強いということだと予想する。
 男鬼神である鬼神王よりかっこよくて......とても強そうだ。ルーシェは鬼神王のすぐ近くまで歩いてきた。コツコツとヒールがなる。近くにくると、よりスタイルがよいことが分かる。そして身長は......思ったより高い。見たところ百八十センチ以上はある。


「俺はずっとお前と戦いたかった。だから勝負だ」
「え......えっと......」


 王相手になんという口の利き方だ。もしこれが鬼神王ではなく、わがままな王だとしたら......恐らくルーシェの首は胴体から離れているだろう。......というより、自分の首が無くなる前に王の首を飛ばしてしまいそうだが。

 鬼神王は突然言われて困っている。そもそも、勝負には出ないつもりだった。絶対に勝てない。そう思っている。せっかくの祭りなのに怪我をしたくない。


「ルーシェ。まずは俺を倒してからにしろ」


 シュヴェルツェが鬼神王の前に立った。ルーシェは険しい表情をした。


「ししょーはヴェルさんに勝ったことないですもんね」
「メリーナ」


 本人の目の前でそんなに素直に言えるところが凄い。鬼神王は苦笑いした。
 シュヴェルツェとルーシェが戦うとどうなるのだろう。二神の年齢は近い。きっと凄いことになるだろう。


「俺に勝てないぐらいじゃ、鬼神王様には勝てない」
「いや、今日はお前を倒す。鬼神王もだ」
「......えっ」


 シュヴェルツェの挑発にルーシェは素直に返した。鬼神王は自分は二神より強くないと思っているため、出来ればシュヴェルツェが勝ち、戦いを避けることが出来ればよいのだが......。


「わぁ~~またししょーとヴェルさんの戦いが見れるのですね!」


 会場も大盛り上がりだ。最強同士の戦いだ。盛り上がらないわけがない。
 鬼神王とメリーナは四階へ戻り、席に着いた。そして鬼神王は席に着くと、両手を握りしめ、シュヴェルツェが勝つように願った。メリーナは今日こそ師匠であるルーシェが勝つように全力で応援している。

 太鼓の音が響き、戦闘が開始した。

 ルーシェは片手で大釜を作り出した。紫色の刃に金色の飾り。重そうな大釜を片軽々と持っている。......まるで死神のようだ。
 そしてピンヒールだというのに高く飛び跳ねたり、素早く走る。
 ルーシェは全身を使い、大釜を振る。しかし、シュヴェルツェはスレスレで避けたり、防御結界を張ったりして攻撃を防ぐ。主に結界を張っている。ルーシェは動きが素早い。そのため、結界を張った方が楽なのだろう。


「ヴェルの結界にヒビが......」


 よく見ると、シュヴェルツェの結界にヒビが入っていた。鬼神王は驚いている。
 驚くのも当然。シュヴェルツェは今まで誕生したばかりの鬼神や強くなりたい鬼神たちのため、シュヴェルツェが敵となり、戦っている。戦いながら教え込んでいるのだ。しかしどの鬼神のシュヴェルツェに攻撃を与えたり、結界を壊すことは出来なかった。ヒビすら入らない。それだと言うのに今見えるのは、ルーシェがシュヴェルツェの結界を壊そうとしているのだ。


「ルーシェさん凄いぞ!!」
「今日こそ倒せるのではないか!?」
「いけー!!」


  けれどシュヴェルツェはこんなものではない。
シュヴェルツェは片手で結界を張り、ルーシェの攻撃を受け止めながら、右手で炎をだした。
 そしてルーシェに向かって投げる。一回では無い。続けて何個も投げつけた。ルーシェは重い大釜を持ちながら素早く避けていく。


「ほぉぅ。やるな。前は当たっていたのに」
「ふん」


 今まで一つや二つは当たっていたようだ。鬼神王は自分だったら絶対に当たると思った。

 続けて、シュヴェルツェは攻撃をする。シュヴェルツェは剣を作り出し、ルーシェに向かって突き刺そうとする。ルーシェは大釜の手持ちの部分で剣を弾いた。しかし防げたものの、剣と大釜の相性は悪い。大釜は一撃が痛いが、剣より素早く振ることが出来ない。そのため、素早く行動しなければ負けてしまう。


「さぁ、かかってこい」


 シュヴェルツェは挑発をする。ルーシェは舌打ちをして、シュヴェルツェに襲いかかる。


「油断してると痛い目にあうぞ!」


 二神から目が離せない。二神とも光のように素早く、瞬きをしている暇はない。鬼神王は鳥肌が立ってしまった。


(かっこいい......)


 二神を見ていると、自分もこのようになりたいと憧れてしまう。
......と。


「これで終わりだ」


 ルーシェは大釜に火をつけ、高く飛び、上から攻撃をした。大釜の刃はドスンと大きな音を立てて地面に突き刺さった。皆は息を飲んだ。シュヴェルツェが避けたようには見えなかった。さらに決壊も張っていなかった。これは......シュヴェルツェがやられてしまったのだろうか。


「後ろだ」


 なんとシュヴェルツェはいつの間にかルーシェの後ろにいた。そして先程ルーシェがやっていたように高く飛び、上から体重をかけて剣を振り下ろした。
 まるで隕石が落ちてきたかのように地面は凹み、ルーシェは大釜を手から話して尻もちを着いていた。


「あっ......ししょー......」


 シュヴェルツェはルーシェの首元に剣を当てている。少しでも動けば切れてしまう。


「降参しろ」
「......ちっ」


 ルーシェはシュヴェルツェを睨み、舌打ちをした。とても悔しそうだ。


「言っただろう。俺に勝てるのは鬼神王様だけだ」
「分かった分かった。俺の負けだ」


 ルーシェは悔しそうな表情を浮かべながら立ち上がり、服の汚れを払った。
 鬼神王はふぅ......とため息をついた。これで戦わずにすむのだ。メリーナは隣で「ししょ~~」とまるで自分のことかのように悔しそうに見つめている。
......と。


「鬼神王様とルーシェさんが戦ったらどうなるんだろう!」

「......えっ」


 嫌な言葉が聞こえてきたような気がする。気のせいということにしておこう。


「私も気になる!!」
「見てみたい!」
「鬼神王様~~頼みます!」


 皆は次々と言う。気のせいだと誤魔化すことは出来ない。鬼神王様はちらっとルーシェを見た。ルーシェはこちらを見ている。戦いたい......そう顔に書いてある。


「えへへ、私も見てみたいなぁ」
「いやいやいや!!僕は無理だよ!!」
「鬼神王様は強いじゃないですか~~」


 メリーナも見たいという。けれど自分はあんなに強くないと思っている。何より怖いのだ。あんな大釜で斬られたら一日中......いや一ヶ月は痛いだろう。


「鬼神王様。無理しなくてもいいですよ。目覚めてそんなに日は経っていませんし、無理することはないです」


 いつの間にかシュヴェルツェは四階に戻ってきていた。顔色が悪い鬼神王に向かって優しく言う。やはりシュヴェルツェは頼りになる。
 しかしここで勝負を断っても良いのだろうか。皆が見たいと口を揃えて言っているのにやらないのは王としてどうなのだろうか。自分が怖いからと言って逃げるのは......情けない。王らしくない。そして逃げれば弱いものとなる。
 だからといって負けたらどうだ?正直勝てるとは全く思っていない。シュヴェルツェに負けたルーシェに勝てる自信が無い。

 鬼神王は頭を抱えた。


(どうしよう......)


 この迷っている自分はみっともない。早く決めなければいけないのに、決められない。足が震える。


「鬼神王様......」


シュヴェルツェは心配して鬼神王の肩に手を置く。無理をしなくても良いと。また、怪我をするのが心配で戦って欲しくないと言っているようにも感じる。
 できるのであればパスをしたい。けれど鬼神たちのことを考えると、パスはできない。
 
鬼神王は深呼吸をした。そして前を向く。


(僕は鬼神王だ。出来る!)


どちらにするか決まったのだ。鬼神王は頬を二回叩く。


「ルーシェ、勝負しよう」 


 震える足に力を入れ、堂々と立った。逃げない。ルーシェと勝負をする。そう決めたのだ。


「鬼神王様......」
「おぉ!!」
「マジか!!」
「きっと凄いことになるぞ!」


 ざわざわと騒がしくなる。シュヴェルツェは心配しているようだ。
 鬼神王様は先程のように四階から飛び降りた。綺麗に着地し、髪の毛がふわりと上がる。そして着地した時に乱れた前髪を上に上げ、視界が見えるようになるとルーシェの前に立ち、目を合わせた。


「手加減はなしだ」
「するつもりなんてない」


 ピリピリと緊張した空気が広がる。
鬼神王の身長が低いせいか、ルーシェに見下されているかのようになっているが......鬼神王は下からじっとルーシェを見つめる。まるで猫同士の喧嘩が始まるかのようだ。


「おぉっと、これはあつい戦いになりますよぉ!大釜を持ち、闇の底へと導く女鬼神ルーシェと~、敵無しと言われるほどの最強鬼神、そして我が国の鬼神王様の戦いだぁ!!」


 絶対に負けてはいけない戦いだ。鬼神王は息を飲んだ。手足が震える。心臓が太鼓のように大きく鳴る。 
 周りを見ると、皆はこちらを見ている。メリーナは立ち上がり、柵に寄りかかっている。メリーナは一体どちらを応援しているのだろうか。





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