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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神
第十七話 殺し
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鬼神王は二神の目の前で着地をした。
「鬼神王様......?」
「邪魔をしているの?」
鬼神たちは鬼神王の行動に理解しておらず、不安の声を上げる。今まで試合を邪魔したものはいない。それだと言うのに、試合中、横から入り込んだ。
鬼神はウェルシャの腕を掴む。ウェルシャは焦りの表情を浮かべていた。どうやら自分の過ちに気づいているようだ。サイフォンは立ち上がり、ウェルシャから離れた。殺されかけていたため、サイフォンの全身は震えている。
「殺そうとしたの?」
「......いえ......そういう訳では......」
「ほんと?」
この勝負、殺せば勝ちではない。相手が降参すれば良いのだ。それなのに相手を喋れなくさせ、殴り続けるのはおかしい。いくら鬼神に代わりがいるとしても、この方法は正しいとは言えない。
何より、鬼神王は勝負ごときで命を落とすのはおかしいと思っている。
「すいません......」
「なぜ......口を押さえていたの?」
優しく言っているつもりなのだが、ウェルシャの手が震えている。別にそんなに恐ろしい顔はしていないと思うが......。
「殺せば...強い者だと皆に思って貰えると思って.........」
まさか自分が強いと思わせるために殺そうとしていたとは。アタラヨ鬼神では殺神(さつじん)をしても罪を背負うことは無い。道端の石を蹴飛ばしたのと同じで、何も悪いことをしていないということになる。
「鬼神王様」
シュヴェルツェとメリーナも降りてきた。二神は何故鬼神王がウェルシャの腕を掴んでいるか知っている。
「別にルールを破っている訳では無いですよね!」
確かにそうだ。けれどそのやり方は本当に良いのだろうか。けれどルールは破っていない。鬼神王はなんとも言えなくなった。
「この決着はウェルシャの勝ちということにしよう」
シュヴェルツェはそう言ったあと、鬼神王を見た。そして小さな声で「どうしますか」と言った。「どうしますか」とは恐らくルールのことだろう。鬼神王はこのルールが気に食わない。けれど鬼神たちがなんとも思っていないのならば、自分がわがままを言って変える訳にはいかない。
けれど、このまま続ければまだ死者が出る可能性がある。
先程戦っていたウェルシャは走って出口まで行き姿を消した。サイフォンは恐らく仲の良い鬼神に肩を借り、邪魔にならないところで手当をしてもらっている。
「皆に鬼神王様の考えを伝えてあげてください。皆理解してくれますよ」
鬼神王は小さく頷いた。そして前を見る。
「この戦い、新しくルールを追加しませんか?......"相手を殺してしまったら両方敗北"......」
鬼神王様は自信なさそうに少し小さな声で言ってしまった。そのため、三、四階にいた神は聞こえなかったという者もいた。
「やはり勝負で命を落とすのは勿体ないと思うんです。いくら代わりがいると言っても、僕にとっては皆大切な仲間です。それに、死んでしまったら思い出が消えてしまいますよね......それってすごく悲しいことではないですか?」
鬼神王がそう言うと、数秒沈黙の時間が流れた。やはりダメなのだろうか。
「俺もそれ思った!」
突然、二階の方から声が聞こえた。鬼神王は声が聞こえた方を見る。すると、色々なところから声が聞こえてきた。
「私もそれいいと思います!」
「僕も少しおかしいって思ってた!」
「さんせーい!」
次々と賛成の声が聞こえる。鬼神王は目を丸くした。てっきり批判の声が上がると思っていたからだ。シュヴェルツェは「言ったでしょう」と言いながら鬼神王の肩をトントンと二回叩いた。
「私も思っていたんですよね。代わりはいるけど、私だったら死にたくないなって」
メリーナもどうやら賛成しているそうだ。けれど鬼神王はメリーナのある言葉に引っかかった。
「メリーナ、代わりがいるって言うの......やめない?メリーナは一神しかいないんだよ。僕はメリーナがいなくなって別の鬼神がくるのは嫌なんだ」
鬼神王がそう言うと、メリーナは驚き、そして微笑んだ。
「えへへ、分かりました!そうですよね、私は一神しかいませんよね」
「うん。こんなに頼りになる鬼神はメリーナしかいない。だから自分の命は大切にしてね」
メリーナは嬉しそうに微笑んでいる。これで分かってくれただろうか。......と、シュヴェルツェがこちらを見ていることに気づいた。......眉間に皺を寄せいる。
「ヴェル?」
「私は頼りになりませんか」
「あっ」と鬼神王は声を漏らしてしまった。シュヴェルツェも頼りになる。そうだ。頼りになる鬼神はメリーナとシュヴェルツェだ!
「大丈夫!ヴェルもだから!!」
「えへへ、ヴェルさんは怖いんですよー」
「今なんと......?」
メリーナは笑いながら逃げる。メリーナは先程鬼神王が言った言葉が嬉しかったのか、ずっと嬉しそうな顔をしている。その顔は実に可愛らしい。
「さて。戻りますか......」
とシュヴェルツェが振り返った瞬間、後ろからある鬼神が歩いてきた。
「鬼神王、勝負しよう」
「鬼神王様......?」
「邪魔をしているの?」
鬼神たちは鬼神王の行動に理解しておらず、不安の声を上げる。今まで試合を邪魔したものはいない。それだと言うのに、試合中、横から入り込んだ。
鬼神はウェルシャの腕を掴む。ウェルシャは焦りの表情を浮かべていた。どうやら自分の過ちに気づいているようだ。サイフォンは立ち上がり、ウェルシャから離れた。殺されかけていたため、サイフォンの全身は震えている。
「殺そうとしたの?」
「......いえ......そういう訳では......」
「ほんと?」
この勝負、殺せば勝ちではない。相手が降参すれば良いのだ。それなのに相手を喋れなくさせ、殴り続けるのはおかしい。いくら鬼神に代わりがいるとしても、この方法は正しいとは言えない。
何より、鬼神王は勝負ごときで命を落とすのはおかしいと思っている。
「すいません......」
「なぜ......口を押さえていたの?」
優しく言っているつもりなのだが、ウェルシャの手が震えている。別にそんなに恐ろしい顔はしていないと思うが......。
「殺せば...強い者だと皆に思って貰えると思って.........」
まさか自分が強いと思わせるために殺そうとしていたとは。アタラヨ鬼神では殺神(さつじん)をしても罪を背負うことは無い。道端の石を蹴飛ばしたのと同じで、何も悪いことをしていないということになる。
「鬼神王様」
シュヴェルツェとメリーナも降りてきた。二神は何故鬼神王がウェルシャの腕を掴んでいるか知っている。
「別にルールを破っている訳では無いですよね!」
確かにそうだ。けれどそのやり方は本当に良いのだろうか。けれどルールは破っていない。鬼神王はなんとも言えなくなった。
「この決着はウェルシャの勝ちということにしよう」
シュヴェルツェはそう言ったあと、鬼神王を見た。そして小さな声で「どうしますか」と言った。「どうしますか」とは恐らくルールのことだろう。鬼神王はこのルールが気に食わない。けれど鬼神たちがなんとも思っていないのならば、自分がわがままを言って変える訳にはいかない。
けれど、このまま続ければまだ死者が出る可能性がある。
先程戦っていたウェルシャは走って出口まで行き姿を消した。サイフォンは恐らく仲の良い鬼神に肩を借り、邪魔にならないところで手当をしてもらっている。
「皆に鬼神王様の考えを伝えてあげてください。皆理解してくれますよ」
鬼神王は小さく頷いた。そして前を見る。
「この戦い、新しくルールを追加しませんか?......"相手を殺してしまったら両方敗北"......」
鬼神王様は自信なさそうに少し小さな声で言ってしまった。そのため、三、四階にいた神は聞こえなかったという者もいた。
「やはり勝負で命を落とすのは勿体ないと思うんです。いくら代わりがいると言っても、僕にとっては皆大切な仲間です。それに、死んでしまったら思い出が消えてしまいますよね......それってすごく悲しいことではないですか?」
鬼神王がそう言うと、数秒沈黙の時間が流れた。やはりダメなのだろうか。
「俺もそれ思った!」
突然、二階の方から声が聞こえた。鬼神王は声が聞こえた方を見る。すると、色々なところから声が聞こえてきた。
「私もそれいいと思います!」
「僕も少しおかしいって思ってた!」
「さんせーい!」
次々と賛成の声が聞こえる。鬼神王は目を丸くした。てっきり批判の声が上がると思っていたからだ。シュヴェルツェは「言ったでしょう」と言いながら鬼神王の肩をトントンと二回叩いた。
「私も思っていたんですよね。代わりはいるけど、私だったら死にたくないなって」
メリーナもどうやら賛成しているそうだ。けれど鬼神王はメリーナのある言葉に引っかかった。
「メリーナ、代わりがいるって言うの......やめない?メリーナは一神しかいないんだよ。僕はメリーナがいなくなって別の鬼神がくるのは嫌なんだ」
鬼神王がそう言うと、メリーナは驚き、そして微笑んだ。
「えへへ、分かりました!そうですよね、私は一神しかいませんよね」
「うん。こんなに頼りになる鬼神はメリーナしかいない。だから自分の命は大切にしてね」
メリーナは嬉しそうに微笑んでいる。これで分かってくれただろうか。......と、シュヴェルツェがこちらを見ていることに気づいた。......眉間に皺を寄せいる。
「ヴェル?」
「私は頼りになりませんか」
「あっ」と鬼神王は声を漏らしてしまった。シュヴェルツェも頼りになる。そうだ。頼りになる鬼神はメリーナとシュヴェルツェだ!
「大丈夫!ヴェルもだから!!」
「えへへ、ヴェルさんは怖いんですよー」
「今なんと......?」
メリーナは笑いながら逃げる。メリーナは先程鬼神王が言った言葉が嬉しかったのか、ずっと嬉しそうな顔をしている。その顔は実に可愛らしい。
「さて。戻りますか......」
とシュヴェルツェが振り返った瞬間、後ろからある鬼神が歩いてきた。
「鬼神王、勝負しよう」
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