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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第十四話 秘密

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「......」

「あっ、鬼神王様!!」
「目覚めましたか」


 目が覚めると、隣にはメリーナとシュヴェルツェがいた。メリーナは目に大粒の涙を浮かべ、喜んでいる。そこまで深刻だったのだろうか......。
 ここは......自分の部屋だ。


「何があったんだっけ」


 そう言いながら体を起こした。


「昨日、貴方は封印された鬼神を助けたのですが、封印の力の一部が貴方に移り、倒れてしまったのです」


 一日経っていたのか。助けたまでは知っていた。まさか封印の力の一部が自分に移ってしまったとは。......なんだか情けない。そして格好悪い。助けたのに自分が倒れてしまうなんて、とても恥ずかしい。


「ごめんなさい。私が鬼神王様のことをしっかり守っていれば......」
「違うよ。僕が勝手に助けちゃったから、メリーナは悪くないよ」


 メリーナは自分のことを責めているが、勝手に助けて勝手に倒れたのは自分だ。メリーナが落ち込むと、申し訳ない気持ちになり、自分まで落ち込んでしまう。


「メリーナ、皆に目覚めたことを伝えてこい」
「は、はい!」


 メリーナはシュヴェルツェのことを以前より怖がっているようにみえる。一体二神の間では何があったのだろうか。
 メリーナが部屋から出ると、シュヴェルツェは鬼神王のそばでしゃがんだ。


「体はもう痛みませんか?」
「大丈夫」


 シュヴェルツェは安堵したようで肩の力を緩めた。しかし、何かを思い出したようで顔色が少し変わった。


「眠っている時......なにか見たりしませんでしたか?」


 夢......確かに見た。けれどあのことは言っても良いのだろうか。あれが本当のことかは分からない。けれど自分の過去を知っている者に会えた。このことは果たしてシュヴェルツェに言っても良いのだろうか。
 何となく、言ってはいけないような気がした。そのため、鬼神王は首を横に振った。


「何も見てないよ、真っ暗だった」
「......そうですか」


 シュヴェルツェはいつもより低い声でそう言うと、左裾に右手を入れた。そして裾から布の塊を取り出した。
 シュヴェルツェは鬼神王の前で布を広げる。すると淡い紅色の花びらが一枚現れた。


「これは......?」
「何か分かりますか?」


 この花は少し見覚えがあるような気がする。けれど何か分からない。アタラヨ鬼神国には花というものは存在しない。人間界では目にするのだが、この国では見ないのだ。
 鬼神王は首を横に振った。


「知らないようですね。安心しました」


 シュヴェルツェは花びらを再び布で包み、左裾に入れた。安心した......と言っているのだから、良いものではないのだろう。


「今日はゆっくりしてくださいね。......昨日のように勝手に抜け出さないこと。分かりましたか?」
「あっ......はい......ごめんなさい......」


 シュヴェルツェはいつものように微笑んでいるが、今日は少し怖い。勝手に抜け出したからだろうか。
 
足音が聞こえた。メリーナが戻ってきたようだ。するとシュヴェルツェが立ち上がった。

「では私はこれで。何かあったらすぐに呼んでくださいね」
「いつもどこにいるの?」


 いつもどこで何をしているか分からない。この前、シュヴェルツェを探そうと、城中歩き回ったが、結局見つからなかった。もしかしたら普段は城に居ないのかもしれない。


「調べ事をしているだけですよ」


 そう言ってシュヴェルツェは部屋から出た。同時にメリーナが入ってきた。
「調べ事をしているのですよ」これは答えになっていない。シュヴェルツェは謎が多い男だ。


「皆さん安心していましたよ!」
「ごめんね、倒れちゃって。ダサいよね」


 鬼神王はベッドからおり、窓の近くまで歩いていった。そして窓の外を眺める。相変わらず争い事も喧嘩も無く、平和な国だ。


「そんなことないですよ!!かっこよかったです!!」


 メリーナはまるで好きなアイドルのことを語っているかのように、鬼神王のかっこよかったところを話した。鬼神王はどのような反応をすれば良いのか分からず、とりあえず苦笑いした。どうやら皆もかっこよかったと口を揃えて言っているそうだ。倒れてダサいなんて思っている者はいないと。
  

「今日はゆっくり休んで、明日は思いっきり遊びましょう!明日はお祭りですから!」
「お祭り......?」


 メリーナは「えっ?」と言って動きが固まった。初耳だ。祭りなど聞いていない。


「ヴェルさんから聞いていないのですか?」
「聞いてない」


 メリーナはてっきり聞いているのかと思っていたらしく、目を大きく見開いて驚いた。そして小声で「まったく、あの神(ひと)は適当なんだから」と腰に手を当て、キレ気味で言った。



「鬼神王様が目覚めてからもう十日以上経ってしまいましたが、目覚めたことを祝うお祭りです!名ずけて......鬼神王お目覚め祭り~~」


 メリーナは笑顔で拍手をした。鬼神王様もつられて拍手をする。まさか自分を祝う祭りだと思わなかった。
 この祭りは結構手の凝った祭りだそう。そのため、準備には時間がかかる。
 しかし、鬼神王は準備しているところを見たことがなかった。もしかしたらサプライズにする予定なのかもしれな......


「あれ?祭りのこと、僕には秘密にしてるとか......そういうのはない?」


 鬼神王がそう言うとメリーナは口を開けたまま、固まった。これはヤバいという顔をしている。恐らくシュヴェルツェが言わなかったのは、忘れていた訳ではなく、秘密にしておくためなのかもしれない。
 

「で、ですが!秘密にしろなんて言われてないんですよ!」


 そう言い訳を言いつつ、メリーナはペコペコと頭を下げて謝った。とにかく、このことは知らないフリをしておくのが良いだろう。出来れば記憶を消したい。けれど消し方が分からない。過去の自分が出来たならできるはずなのだが......。

鬼神王はメリーナに聞こえないぐらい小さなため息をついた。


(この記憶を消す代わりに、過去の事を一つだけでも思いませたら良いのに)





✿❀✿❀✿


 シュヴェルツェは立ち止まった。目の前には扉も道も何も無い。シュヴェルツェはキョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認したあと、右手の人差し指で壁に紋を描いた。燃える炎のような紋。これはアタラヨ鬼神国の紋だ。
 紋を描き終わると、紋は赤色に輝いた。そして輝きが消えると紋の中心部分から、赤色の線が入り、その線の間から壁が二つに分かれた。すると、石造りの階段が現れた。中は真っ暗で階段以外何も見えない。隠し扉だろうか。

 シュヴェルツェは再び、誰もいないことを確認すると、暗闇の中へと足を踏み入れた。

 コツコツと一段一段ゆっくりと降りていく音が響いている。灯りがなく、前すらあまり見えないというのに、シュヴェルツェはゆっくりと降りていく。そして長い階段を降り切ると、目の前に木造の扉が現れた。

 シュヴェルツェは片手で扉を開ける。キィ......と古びた木造の扉の音が響く。開けると、部屋の中のほんのり明るい光がもれだした。

 この部屋は......一体どのようなことをするための部屋なのだろうか。
 部屋の中心には、大きな水晶玉のようなものがあった。その玉には黒色の煙を閉じ込めているように見える。
 
シュヴェルツェはその水晶玉の前に立つと、水晶玉を右手で触れた。すると、シュヴェルツェが触れたところから黒い煙のようなものがギュッと集まり、不思議な模様が現れた。よく見るとこの模様は地図のようになっている。恐らくアタラヨ鬼神国の地図だろう。

 シュヴェルツェはその地図をじっと見つめている。目を細め、獲物を探しているかのようにじっと。鬼神がいるところは黒く輝き、獲物は赤色に光る。しかし、いくら見つめても獲物は見つからなかった。

 すると裾からあるものを取り出した。それは鬼神王に見せた花弁を包んでいる布だ。取り出すとゆっくりと広げる。


「!?」


 包んでいたはずの花びらがなくなっていた。シュヴェルツェは一度目を擦ったが、花びらは見当たらない。落とした訳では無い。鬼神王に見せたあと、すぐにしまったのだから。


(あの花は......いや。あいつらにはそのようなことは出来ない。......となれば......)


 シュヴェルツェの顔色が変わった。


「裏切り者か」



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