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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神
第九話 ストレス
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数日後。
シュヴェルツェから聞いた。この前光の玉を付けた人間たちは不幸になったと。病気が悪化したり、事故にあってしまったり。家が火事になり家族は自分以外亡くなってしまったりなど胸が苦しくなるようなことばかりだった。
(これは良い事なのかな......?)
シュヴェルツェや鬼神たちは嬉しそうに手を叩く。鬼神王はこういう時は喜ぶべきなのだろうと思い、嬉しいふりをした。けれど正直、自分は喜ぶべきでは無いと思っている。鬼神王は服の胸元をギュッと握った。
(なんだろう)
すごくモヤモヤする。皆と合わない。こんなのが王で良いのだろうか。
「大丈夫ですか?最近元気がないですね......」
「......ぁ」
メリーナに声をかけられ我に返った。今は朝食を食べている。それなのに手が止まっていて、鬼神王は朝食のフレンチトーストを一欠片フォークに刺したままだった。急いで口へ運ぶ。
「ため息の数も増えましたし、笑顔が減りました。なにか困り事でもあるのですか?」
メリーナは鬼神王のお茶を注ぎながら心配そうに言った。鬼神王は首を横に振る。
「なんでもないよ」
「本当ですか?」
鬼神王は真っ赤なトマトをじっと見つめゆっくりと口に入れる。口に入れて数秒後、鬼神は皺を寄せ今にでも涙を流してしまいそうな顔をした。
「本当に大丈夫なのですか!?」
「違う......あ、大丈夫なんだけど......」
右頬の内側に出来た口内炎が沁みる。メリーナはなぜ鬼神王があんな苦しそうな顔をしたのか理解した。料理担当は別の鬼神だが、料理を運んできたのはメリーナだ。鬼神王の口に口内炎が出来ていることをなぜもっと早くに知らなかったのか後悔した。
「残しても良いですよ!」
「ごめんなさい」
鬼神王はいつも料理を残さない。好き嫌いせず、綺麗に食べる。それなのに今日はトマト......いやそれだけではない。フレンチトーストやサラダも残してしまった。
メリーナはますます心配になった。
✿❀✿❀✿
朝食後、鬼神王はシュヴェルツェと合流した。見晴らしの良いバルコニーに椅子とテーブルが用意してあり、そこに座る。メリーナが暖かいお茶と茶菓子を用意してくれた。鬼神王は甘いものが好きだ。しかし今日は茶菓子を食べようと手が伸びることは無かった。
「鬼神王様。大丈夫ですか?食欲が落ちていますね」
「そうかな?」
鬼神王は苦笑いをして、用意された茶菓子を取ろうとする。するとシュヴェルツェが止めた。
「無理に食べなくても良いです。今日の朝食、食欲がなくて食べきれなかったのでしょう?」
メリーナが心配してシュヴェルツェに言ったのだろうか。鬼神王は視線を下にそらした。
「口内炎ができていると。できる主な理由は栄養不足かストレスです。おそらく栄養不足では無いでしょう。料理担当にはきちんと栄養バランスの良い料理を作らせているので。......鬼神王様。なにか辛いことでもありましたか?」
この言い方だと原因はストレスだと言うことになる。鬼神王は反応に困った。辛いことはない。それにストレスを感じていることは全く無いと思っている。シュヴェルツェは鬼神王としてのプレッシャーだの責任感だので苦しんでいるのだと思っているのだが、決してそんなことは無い。
......ただ困っていることは一つだけある。それは自分と周りの気持ちが一致しないことだ。皆が喜んでいることが心から喜べない。これはストレスが原因なのでは無い。鬼神であるはずなのにどうも自分が"普通"の鬼神とは離れている気がする。
「俺は鬼神王様に幸せになってもらいたいのです。触れることすら出来なかった幸せを......今掴んで欲しいのです」
鬼神王はしばらく躊躇ったものの全てシュヴェルツェに話した。
するとシュヴェルツェは目を大きく見開いた。そして顎に手を当て下を向いた。なにか考えている。しばらくすると、シュヴェルツェは顔を上げ、心配そうな表情を浮かべた。
「心配することはありません。きっと疲れているのですよ。気づかないうちにストレスが溜まり、心から喜べなかっただけです。今日はゆっくり休んでください」
そうして鬼神王は部屋に戻ってきた。シュヴェルツェとは途中で別れた。メリーナは片付けてから鬼神王の部屋に来るそうで、それまでは一神だ。
(これはストレスなんかじゃない)
これだけは言い切れる。気づいていない訳ではない。鬼神王は窓を開け、外の様子を眺めた。鬼神たちは今日も楽しそうに遊んだり話したりしている。
そして鬼神王が外を見ていることに気づいた一神の鬼神は『鬼神王様だ!』と嬉しそうに叫び手を大きく振る。そして周りにいた鬼神たちも手を振った。鬼神王は笑顔で手を振り返す。皆に愛されている。
(嬉しい)
ここでは嬉しいと思えるではないか。自然と笑顔になる。また、今すぐ外へ行って手を振っている鬼神たちと話したい。
そう思っていると扉をノックする音が聞こえた。どうやらメリーナが来たようだ。鬼神王は窓を閉め、振り返った。
「早いかったね。片付けさせちゃってごめんね、ありがとう」
「いえいえ!私は鬼神王の側近ですので!謝る必要はありませんよ!」
鬼神王は王だからと言って、威張ったり神を使わせたりすることは一度もない。そのため、側近たちは自ら仕事を探して実行する。側近立ちからすれば、もう少し命令された方がよいのだが......命令しないのは鬼神王の優しさだ。なんて優しい方なんだろうといつも呟きながら仕事をしている。
「鬼神王様は本当に優しい方ですよね」
「そうかな」
シュヴェルツェから聞いた。この前光の玉を付けた人間たちは不幸になったと。病気が悪化したり、事故にあってしまったり。家が火事になり家族は自分以外亡くなってしまったりなど胸が苦しくなるようなことばかりだった。
(これは良い事なのかな......?)
シュヴェルツェや鬼神たちは嬉しそうに手を叩く。鬼神王はこういう時は喜ぶべきなのだろうと思い、嬉しいふりをした。けれど正直、自分は喜ぶべきでは無いと思っている。鬼神王は服の胸元をギュッと握った。
(なんだろう)
すごくモヤモヤする。皆と合わない。こんなのが王で良いのだろうか。
「大丈夫ですか?最近元気がないですね......」
「......ぁ」
メリーナに声をかけられ我に返った。今は朝食を食べている。それなのに手が止まっていて、鬼神王は朝食のフレンチトーストを一欠片フォークに刺したままだった。急いで口へ運ぶ。
「ため息の数も増えましたし、笑顔が減りました。なにか困り事でもあるのですか?」
メリーナは鬼神王のお茶を注ぎながら心配そうに言った。鬼神王は首を横に振る。
「なんでもないよ」
「本当ですか?」
鬼神王は真っ赤なトマトをじっと見つめゆっくりと口に入れる。口に入れて数秒後、鬼神は皺を寄せ今にでも涙を流してしまいそうな顔をした。
「本当に大丈夫なのですか!?」
「違う......あ、大丈夫なんだけど......」
右頬の内側に出来た口内炎が沁みる。メリーナはなぜ鬼神王があんな苦しそうな顔をしたのか理解した。料理担当は別の鬼神だが、料理を運んできたのはメリーナだ。鬼神王の口に口内炎が出来ていることをなぜもっと早くに知らなかったのか後悔した。
「残しても良いですよ!」
「ごめんなさい」
鬼神王はいつも料理を残さない。好き嫌いせず、綺麗に食べる。それなのに今日はトマト......いやそれだけではない。フレンチトーストやサラダも残してしまった。
メリーナはますます心配になった。
✿❀✿❀✿
朝食後、鬼神王はシュヴェルツェと合流した。見晴らしの良いバルコニーに椅子とテーブルが用意してあり、そこに座る。メリーナが暖かいお茶と茶菓子を用意してくれた。鬼神王は甘いものが好きだ。しかし今日は茶菓子を食べようと手が伸びることは無かった。
「鬼神王様。大丈夫ですか?食欲が落ちていますね」
「そうかな?」
鬼神王は苦笑いをして、用意された茶菓子を取ろうとする。するとシュヴェルツェが止めた。
「無理に食べなくても良いです。今日の朝食、食欲がなくて食べきれなかったのでしょう?」
メリーナが心配してシュヴェルツェに言ったのだろうか。鬼神王は視線を下にそらした。
「口内炎ができていると。できる主な理由は栄養不足かストレスです。おそらく栄養不足では無いでしょう。料理担当にはきちんと栄養バランスの良い料理を作らせているので。......鬼神王様。なにか辛いことでもありましたか?」
この言い方だと原因はストレスだと言うことになる。鬼神王は反応に困った。辛いことはない。それにストレスを感じていることは全く無いと思っている。シュヴェルツェは鬼神王としてのプレッシャーだの責任感だので苦しんでいるのだと思っているのだが、決してそんなことは無い。
......ただ困っていることは一つだけある。それは自分と周りの気持ちが一致しないことだ。皆が喜んでいることが心から喜べない。これはストレスが原因なのでは無い。鬼神であるはずなのにどうも自分が"普通"の鬼神とは離れている気がする。
「俺は鬼神王様に幸せになってもらいたいのです。触れることすら出来なかった幸せを......今掴んで欲しいのです」
鬼神王はしばらく躊躇ったものの全てシュヴェルツェに話した。
するとシュヴェルツェは目を大きく見開いた。そして顎に手を当て下を向いた。なにか考えている。しばらくすると、シュヴェルツェは顔を上げ、心配そうな表情を浮かべた。
「心配することはありません。きっと疲れているのですよ。気づかないうちにストレスが溜まり、心から喜べなかっただけです。今日はゆっくり休んでください」
そうして鬼神王は部屋に戻ってきた。シュヴェルツェとは途中で別れた。メリーナは片付けてから鬼神王の部屋に来るそうで、それまでは一神だ。
(これはストレスなんかじゃない)
これだけは言い切れる。気づいていない訳ではない。鬼神王は窓を開け、外の様子を眺めた。鬼神たちは今日も楽しそうに遊んだり話したりしている。
そして鬼神王が外を見ていることに気づいた一神の鬼神は『鬼神王様だ!』と嬉しそうに叫び手を大きく振る。そして周りにいた鬼神たちも手を振った。鬼神王は笑顔で手を振り返す。皆に愛されている。
(嬉しい)
ここでは嬉しいと思えるではないか。自然と笑顔になる。また、今すぐ外へ行って手を振っている鬼神たちと話したい。
そう思っていると扉をノックする音が聞こえた。どうやらメリーナが来たようだ。鬼神王は窓を閉め、振り返った。
「早いかったね。片付けさせちゃってごめんね、ありがとう」
「いえいえ!私は鬼神王の側近ですので!謝る必要はありませんよ!」
鬼神王は王だからと言って、威張ったり神を使わせたりすることは一度もない。そのため、側近たちは自ら仕事を探して実行する。側近立ちからすれば、もう少し命令された方がよいのだが......命令しないのは鬼神王の優しさだ。なんて優しい方なんだろうといつも呟きながら仕事をしている。
「鬼神王様は本当に優しい方ですよね」
「そうかな」
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