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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神

第五話 あるもの

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 次の日の朝。

 鬼神王は目をしました。
 ベッドから体を起こす。
 このベッドは十神が寝ても十分な広さで、寝心地がよかった。
 鬼神王はベッドからおり、ガラス張りの扉を開け、部屋のバルコニーにでた。
 街を見ると、散歩をしている鬼神たちが数名。さすがに遊んでいる鬼神はいなかった。
 時刻は午前六時三十分。けれど外は暗い。月が出ている。


「太陽が出ないと朝って気分にならないな」


 日中月が出ていて星々が輝いている。
 夜より朝の方が星の輝きが強く明るいのだが、やはり太陽がでないと.........


「あれ......」


 鬼神王は疑問に思った。
『太陽』とはなんだ?先程呟いていたが、『太陽』とはどのようなものなのだろうか。
 記憶がないのは本当に不便だ。

 すると扉をノックする音が聞こえた。


「お目覚めですか?」

「あ、うん!」


 メリーナが入ってきた。
 鬼神はバルコニーからメリーナに挨拶をした。
 メリーナも挨拶をしながらバルコニーに来る。


「どうされたのですか?眠れなかったのですか?」


 鬼神王は首を横に振った。
 太陽とは何か......聞きたい。しかし、『人間』とは何か聞いた時のシュヴェルツェのように驚かれたら困る。
 そのため聞かない方が良い気がする。
 そのうち知ることになるだろう。


「お着替え手伝いますね」

「ありがとう」





 ✿❀✿❀✿



「あ!鬼神王様だ!」


 朝食を済ませたあと、鬼神王とシュヴェルツェは街を歩くことにした。

 鬼神王は鬼神たちと話してみたいと言っていたため、あえて鬼神が多く集まる広場付近にいる。

 鬼神王が歩くだけで周りはお祭りのように騒がしくなる。皆は鬼神王に注目し、嬉しそうにしている。


「なんか......恥ずかしいな...」


 鬼神王は耳を真っ赤に染めている。
 王らしくもう少し堂々としていたいのだが、どうも恥ずかしい。
 ......と。


「鬼神王様ー!」


 二神の六歳ぐらいの女鬼神と男鬼神王が走ってきた。
 手には蝶々の形の棒付き飴を持っている。


「鬼神王様、あげる!」

「とーっても、美味しいんだよ!」


 背が低い二神は背伸びをしながら鬼神王様に飴を差し出した。
 鬼神王様は二神の目線と合わせるため、姿勢を低くして、両手で丁寧に飴を受け取る。


「ありがとう」


 鬼神王はニコッと優しい笑を浮かべる。
 鬼神王が心優しい神だと安心したのか、他の鬼神たちも集まってきた。


「鬼神王様、これどうぞ!」

「良ければ受け取ってください!」

「私も!お口に合うか分かりませんが!」


 丁寧にラッピングされた手作りクッキーやカップケーキ、ドーナツなど、甘いお菓子ばかりだった。
 鬼神王はこんなに持ちきれないと思ったが、ちょうどある一神が「よかったら使ってください」と丁寧に作られたトートバッグをくれたため、そこに全て入れることにした。
 そのトートバッグはシュヴェルツェが持ってくれている。


「へへ、沢山ありがとう」


 鬼神王の笑顔を見て、周りの鬼神たちも笑顔になる。


「可愛い~」

「癒されるわ」


 鬼神王は恥ずかしくて聞こえていないフリりをした。
 しかし耳が赤いためすぐにバレてしまう。
 その様子を見て鬼神は微笑む。


「鬼神王様は多くの鬼神たちに愛されていますね」


 鬼神王は人差し指を頬に当て照れ笑いした。


 ✿❀✿❀✿


 街から外れ、鬼神たちの数は減って静かになった。


「どこにいくの?」

「着いてからお伝えしますね」


 先程、シュヴェルツェは鬼神王に「着いてきてください」と言った。
 鬼神王はなにか分からないまま着いてきた。
 葉のない木々に囲まれた森。地面は石畳で出来ている。
 両端には灯篭が立ち並んでいて、辺りを暖かく照らしてくれている。

 管理はされているが、神通り(ひとどおり)が少ない。
 今は風によって揺れる木々のカラカラとした音と、二神が石畳の上を歩くコツコツとした音しか聞こえてこない。


「もう着く?」

「えぇ。もう少しです」


 しばらく歩いていると、今度は少し長い階段が現れた。
 ざっと数えると五十段ほどだろうか。
 鬼神王はだんだん疲れてきた。
 どうか早く「ついた」と言って欲しい。その言葉が早く聞きたい。
 そう思いながら黙って着いていく。
 すると、今度はザーと水の流れる音が聞こえてきた。
 水の流れる音のせいで、先程まで聞こえていたコツコツという足音がかき消されていく。


「つきました」


 水の流れる音で少し聞こえにくかったが、何とか聞き取れた。
 この音の正体は滝のようだ。
 大きな立派な滝だ。
 湖には大きな月と星々が浮かんでいる。
 滝の水によってゆらゆらと揺れ、月と星々はじっとしていることをしらない。


「ここに何があるの?」

「あそこを見てください」


 指さされたところを見ると、湖の真中に大きな岩が一つだけあった。
 岩は平になっていて、上には黒色の陣が敷かれている。



「あれには乗ってはいけません。そして、今後、ここには絶対に近寄らないでください」

「どうして?」


 鬼神王は首を傾げた。
 陣が敷かれているとはなにか大切なものがあるのだろう。
 鬼神王が来ては行けないとなると......そうとう大切なものなのだろうか。


「ある"もの"を封印しております。鬼神王様がこの陣の上に乗ってしまうと封印は解かれます。封印が解かれると鬼神王様でもどうすることもできなくなってしまいますので」


『あるもの』とはなんだろうか。このような場所にそんな危険なものが封印されているとは思わない。
 てっきり隠し部屋か秘密基地のようなものがあるのかと思ったのだが......。
『あるもの』と言われるとどうしても知りたくなる。
 けれどシュヴェルツェがあえて『あるもの』と言ったのだから、あまり言いたくないのだろう。


「ここは危険ですのでそろそろ行きましょう」


 モヤモヤした気持ちが残ったままだが、その気持ちを抑えることにした。
 鬼神王は戻るため振り返った。......すると。


『......て............り......』


「?」


 冷たい風と共に一瞬耳元でなにか聞こえたような気がする。
 キョロキョロと辺りを見渡したが......なにもない。
 気の所為ということにしておこう。
 きっと風によって揺れた木々の掠れる音だろう。
 鬼神王はそのままシュヴェルツェについて行った。



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